アメリカ西海岸のベイエリアを拠点とするスタートアップSwayの実験室にある透明な素材の薄片サンプルは、レジ袋や包装フィルムによく使われるプラスチックのように見える。斑点のある緑色の別のサンプルを見ると、その素材が実は何でできているのか分かる。プラスチックの製造に通常使われる化石燃料ではない。海藻だ。

「ブランド戦略とパッケージのデザインを10年ほど担当していたので、責任者として製品のラインナップにプラスチックを導入したことが何度もありました」 そう話すのは、Swayの共同創業者でCEOのジュリア・マーシュだ。同社は最近、250万ドルの新規事業資金を調達すると発表した。「プラスチックを使うことは、環境を大切にしたいナチュラリストの自分にとって、明らかにアイデンティティに反することだと思ったのです」

包装に使われているプラスチックの問題は深刻だ。毎年、何百万トンものプラスチックが海に流れ込み、その大半を包装ゴミが占める。プラスチックの素材としての価値は、1回の使用で95%が失われてしまう。ほぼすべてのプラスチックが化石燃料から作られるため、気候変動の大きな原因にもなる。最近の報告によれば、米国のプラスチック産業は10年後に石炭以上の汚染源になると推定されている。

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既存の代替品には課題があるものもある。たとえば、堆肥化できるフォークをトウモロコシ由来のプラスチックで作る場合、そのトウモロコシを育てるために、本当なら食用作物の栽培に使える広大な土地と肥料が必要になる。(また、トウモロコシで作られるタイプのプラスチックは、産業用の堆肥化設備でも堆肥にするのが難しい。そうした設備を持たない自治体では、結局ゴミになってしまう。)食品廃棄物から作られるプラスチック回収したCO2を原料とするプラスチックなどの新素材は有望だが、多額の費用がかかる製造設備が新たに必要となる可能性がある。

マーシュはいくつかの選択肢を検討し、海藻に秘められた可能性に気づいた。海藻を育てるのに土地や肥料はいらない。さらに、成長する過程で環境と社会の両方に利益をもたらす。世界中の海岸で海藻を栽培すれば雇用が生まれ、貴重な収入源になるからだ。「すぐにその考えにとりつかれました」と彼女は語る。

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「海藻は気候と環境にやさしい持続可能な素材です。多くの陸上植物と同じく、大気から二酸化炭素を取り除く重要な役目を果たし、年間でかなりの量の炭素を吸収しています」 非営利組織コンサベーション・インターナショナルのブルーエコノミー(海洋経済)投資ディレクターであるジャン・ヨシオカは、メールでそう語っている。ヨシオカ率いるベンチャー投資部門は、Swayの最近の資金調達に協力した。「気候緩和のメリットだけでなく、多くの海藻は水質と透明度の向上に役立つという点でも高い効果を発揮します。また、陸上で発生した富栄養化(ふえいようか)した排水などの汚染物質による、沿岸の生態系への悪影響を減らしてくれます」

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※富栄養化(ふえいようか)とは、川の水や海水に含まれる栄養分が、自然の状態より増えすぎてしまうことを指します。日ごろ私たちが使う洗剤や農薬、肥料などに含まれる窒素やリンが水中の植物やプランクトンの栄養になり、水中のプランクトンなどが増えすぎることで生態系を壊します。

現在は収穫される海藻のほとんどが、アイスクリームの品質を保つ安定剤などの形で食品に使われている。しかしSway独自の製法で、海藻から採れるセルロースを用いれば、プラスチックフィルムを作ることができる。その素材は既存のプラスチック製造設備で取り扱いが可能だとマーシュは言う。

企業にとって重要なのは、サプライチェーンと綿密に連携し、責任を持って生産を拡大する方法を評価すること、そして製品が実際に堆肥になるのを確認すること――ベンチャーキャピタル企業Closed Loop Partnersでサーキュラーエコノミー・センターのマネージング・ディレクターを務めるケイト・デイリーはそう語る。「革新的な素材の調達やサプライチェーンに移行するときはいつもそうですが、この種の資源の生産に海や農地を使う場合、さまざまな使用事例の中でも特に、食料生産と比較して評価する必要があります。最も効率よく、最もよい方法で資源が使われるようにしなければなりません」と彼女は主張する。「革新的な素材のソリューションを評価する際に、考慮すべきことはたくさんあります。協力関係を築かなければ、システムに携わるすべての関係者に価値をもたらすことも、システムレベルでの課題に対処する最適な方針についての成功事例を生むこともできません」

Swayは新たに調達する資金で、実験段階から実証段階に移る見通しだ。現在も製法の最適化を続けているが、素材の強度はすでに、買い物袋や包装フィルムによく使われる標準的な低密度ポリエチレンを上回るという。海藻プラスチックは透明にできるほか、一般的なプラスチックを使っていないことをアピールしたいブランド用に、海藻本来の色や質感を持たせたものを作ることもできる。同社チームによる初期試験も終了し、その素材が裏庭の土ですぐに分解されることが明らかになっている。

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Swayは海藻プラスチックを使って、オンラインショッピングの注文で衣類の包装に使われる薄いプラスチックフィルムや買い物袋に代わるものを作り始めている。薄いプラスチックフィルムの用途は今後、食品包装などにも広げていく予定だ。マーシュにしてみれば、製品は包装を使わないか繰り返し使える包装にするのが理想だが、現実はそうはいかない。プラスチックのレジ袋からエコバッグへの切り替えは簡単で、使い捨てレジ袋の禁止がさらに広がるだろうという主張は間違いではない。ただ、それでも「引き続き使われる買い物用レジ袋は、米国全体で数十億枚にのぼるでしょう」と彼女は話す。エコバッグは必ずしもすべての人にとって使いやすい選択肢ではないのだ。

「誰でも気軽にエシカル消費ができるようなソリューションを考えたいのです」と彼女は言う。「Swayの買い物袋なら、こんなメッセージも一緒に届けられるかもしれません。『ちょっと聞いて。わたしは海藻でできてるの。こちらがあなたのレジ袋を育てた海藻農家。気候変動の活動に参加することにしたなんて素敵! だってこの素材なら、あなたの家の裏庭で健全な土へと還るから』」

この記事は、Fast Companyよりアデル・ピーターズが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはすべてlegal@industrydive.comまでお願いいたします。
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