「こどもや家族の社会的な孤立を防ぎたい」。週に一度、誰もが集える「ソーシャルなお茶の間」と呼ぶこども食堂を開催する団体があります。食事を提供する傍ら、食の支援を通じ「困っている時に相談できる人がいること、身を寄せられる居場所があること」が大切だといいます。その思いとは。(JAMMIN=山本 めぐみ)

週一開催のソーシャルなお茶の間「たべまな」

とある日の「たべまな」のメニュー。無水ポトフと鱈のグラタンとひよこ豆のサラダ

福島県白河市に拠点を置く「KAKECOMI(カケコミ)」。「かけこみ寺」と「コミュニティ」を掛け合わせた団体名の通り、「社会的な孤立を予防する」というミッションを掲げて活動しています。

活動のひとつが、こどもや親子が集まっておいしいごはんを食べるソーシャルなお茶の間「たべまな」の開催。こどもは無料でごはんを食べることができる、いわゆる「こども食堂」ですが、ここでは食事を「まかない」と呼んでいるとのこと。

「こどももおとなもそうだと思うのですが、助けてもらうと最初は嬉しいかもしれないけれど、してもらうことばかりが続くと、だんだん惨めな気持ちになりませんか。だから『まかない』なんです」と話すのは、代表でソーシャルワーカーの鴻巣麻里香(こうのす・まりか)さん(42)。

お話をお伺いした鴻巣麻里香さん

「ここでは、食事の配膳や調理、誰かの宿題を助けてくれたり…こどもたちが積極的に参加できるスタイルをとっています。それぞれできることをしてくれたこどもたちが、その対価として、当然の権利として食べてほしいと思っています」

「おとながこどもを『支援する』のではなく、また『尊重しましょう』とか『対等にしましょう』という気持ちから入るのでもなく、枠としてイコールになれる場。それぞれが対等に関わることができる空間づくりや、特別な子やかわいそうな子だけに食べ物や役割を与えるのではなく、来たい人は誰でも来ることができて、それぞれが無理なくやりたい分だけやれるような空間を意識しています」

「たべまな」には、一回平均で20〜25人ほどが集まるという

「たべまな」には、一回平均で20〜25人ほどが集まるという

「ただ、空間は設けることはできても、それを本人が居場所にするかどうかはそれぞれが決めること。なので『居場所作り』という言い方も、本当はあまり好きではありません」と鴻巣さん。

「空間に人が入り、そこに有機的なつながりや気づきが生まれていく。知らない人と食卓を囲む経験をどう感じるか、どういう意味づけをするかは、こどもたちそれぞれが決めること。楽しいと思ってくれたらいいし、楽しくない、合わないと思ってもそれはそれでいいんです。自分がどう感じるのか、好きか嫌いか、楽しいか楽しくないか、それも経験をしてみないことにはわかりませんよね。その機会を用意したいと思っています」

「こどもがおとなに対して意見できる場でありたい」

「たべまな」は「こどもはまかない・おとなはカンパ」がルール

「たべまな」は毎週月曜日、午後3時〜8時までオープンしています。ごはんは大体夕方6時過ぎからで、出入りも自由。遊んだり宿題をしたり、本を読んだりくつろいだり…。何をするのも自由だといいますが、場として意識していることを尋ねてみました。

「こどもがおとなに対してもしっかりノーといえたり意見できる場でありたいと思っています。あとは、やはり学校や家庭、生活の場でつくられるさまざまな価値観から自由になれる場でありたいという思いもあります。ジェンダーロール(性別によって社会から期待される役割)が押しつけられないよう留意しています」

「たとえば、『男の子はやっぱり背が伸びるのがはやくていいね』とか『女の子はやっぱり気が利くね』という声がけは、もしかしたら本人を苦しめるかもしれません。何よりもこどものための場なので、場を運営する責任者としてもしそのような発言があった場合は、『それは地雷だよ』と伝えます。一人ひとりの属性は別として、こどもたちが居心地がよくないと感じる場にはしたくないと思っています」

孤立が深まると、周囲からはより見えなくなる。「つながり続ける」大切さ

お誕生日月を、ケーキでお祝い。名前とメッセージが書かれたクッキーに、嬉しそうな表情を浮かべるこども

暴力や貧困に苦しみ、自立したいけれどさまざまな理由からそれが難しい、家を出たいけれどアパートが借りられないといった女性が安心して暮らせるシェアハウスも運営しているKAKECOMI。「社会的な孤立に陥った時、孤立しているからこそ苦しみが周りからは見えないという問題がある」と鴻巣さんは指摘します。

「家庭が経済的に困窮すると、生活の幅が狭まり、経験や人と出会う機会も減ります。不登校はこどもの社会的な孤立の入り口の一つですが、学校に行かなくなると生活の範囲はさらに狭まります」

おとなとこどもが一緒に餃子を包む。「親子という縦軸からも同級生という横軸からも自由な関係が生まれています」

「それでも経済力があれば、フリースクールに通ったり塾に通って学力が下がるのを防いだり、習い事を続けて特技を磨いたりすることができます。しかし困窮と不登校が組み合わさった時、親子そろって社会から見えなくなり、こどもにとっての機会やチャンスが大きく損なわれてしまうのです」

「私たちはまず、つながり続けられる『開かれた場』を提供したい。孤立しきってしまうと、つながることさえ難しくなる。なので週に一度であっても、つながり続けることが大事なのです」

活動の原点は、自身の体験

「たべまな」のキッチンに立つ鴻巣さん

鴻巣さんがこの活動を始めたきっかけは、こどもの頃の自身の体験にあるといいます。

「こどもの時に、母親が外国籍であることを理由にいじめに遭いました。いじめが始まった時、『私は一体何をしてしまったんだろう』と思いました。ミスをしたのであれば非を詫びてやり直したいと思いましたが、なぜいじめられるのか、思い当たる節がありませんでした。つまり結果的に相手からすると、半分外国の血が入っていて異質な存在だったから排除したというだけなんです」

「原因が行動なのであれば変えられるけれど、外見や私の血は変えられない。ならば存在を消すしかない。何もしていないのにその場にいられないことがとてもつらかった」と当時を振り返る鴻巣さん。話せばショックを受けるだろうと、親にもいじめの原因はいえなかったといいます。

子どもの頃の鴻巣さん(写真手前)

「心配をかけたくないというのもあるけど、面倒だしみじめで。学校は嫌でしたが、行かないとなるとそれはそれで面倒なので、毎日とりあえず行くだけ行って、息をして帰ってくる、みたいな生活でした。家に帰ってきてからも秘密を抱えて。そう、ただ息をしていました」

それでも鴻巣さんが生き続けられたのは、さまざまなおとなたちとの出会いがあったからだといいます。

「親が社交的で、週末になるとさまざまな国籍の知人友人を呼んでホームパーティをしたりすることが多く、親でもないし先生でもない、いろんなおとなに会う機会があったんです。そうすると『学校なんて行かなくてもいいんだよ』というおとながいたり、いろんな意見や考えに触れることができて。振り返ってみると良い経験でした」

その後、自分の中にある空虚さや不完全さを埋めるように勉強に打ち込んだという鴻巣さん。大学院に進学しますが、こどもの時に経験した孤立は続きました。

「自分が何者なのかわからなくなり、大学院の時に休学し、実家に戻って鬱々としていました。その時に精神障害のある人が共同生活を送る施設でボランティアをしないかと誘われて、そこでたくさんの人たちがさまざまな色眼鏡で苦しむ姿を見たんです。なぜなんだろう、どうすればいいんだろうと思いながら福祉の世界に入りました。そして、めぐりめぐって『たべまな』をスタートしたんです」

「原因探しをしなくても、こどもたちの幸せは実現できる」

地域のラーメン屋さんが出張ラーメン食堂を開催

今、もしこどもの頃の自分が「たべまな」に来たらどう感じるか、という問いに、鴻巣さんは次のように答えてくれました。

「『たべまな』の活動自体、『あの時、たった一人で悩みを抱え、孤独だった自分に何をしてあげられただろう』という思いはあります。でも、きっかけはそこかもしれないけれど、動き出したらもはや私の願望からは手を離れ、今の『たべまな』は、今ここに来ているこどもたちのものなので。こどもの時の自分がどう感じるかは、想像もつかないですね。でも、入り浸っていたと思います」

最後に、読者の方たちに伝えたいことを尋ねました。

「誰かのせいにしなくてもこどもたちの幸せは実現できますよ、とお伝えしたいです。虐待などのニュースがあるたびに『親が悪い』という批判があります。確かにそう見えるかもしれないし、もしかしたら実際にそうなのかもしれません。でも、それをそうだといって責任を押し付けなくても、他にこどもたちを幸せにする手立てはたくさんあると思うのです」

「ごはんをつくらないお父さんお母さんを責めるなら、ごはんを美味しく食べられる場所をつくればいい。暴力を振るうお父さんお母さんを責め、そこに怒りを表すのなら、隣の家にそういう子がいた時に守る行動をとればいい」

「虐待のニュースに怒りを覚えるのは自然なことです。その怒りがシステムへの批判につながれば、それはめぐりめぐってこどもを救うことになります。でも、怒りを誰か個人にぶつけても、こどもを救うことはできません。『目の前の子をどうやって幸せにできるか』ということにエネルギーを向けられたらいいなと思います」

「そしてその時に、ぜひこどもたちの声を聞いてほしい。私たちも皆こどもの時代があったので、つい『自分がこどもの時はこうだった』とわかっているような気になってしまうのですが、私たちはもうこどもではありません。今を生きるこどもたちはまた別の存在です。だから、こどもとたくさん会話をしてほしいし、そういった場が増えるといいなと思います」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

※現在、キャンペーンは終了しています。

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、KAKECOMIと11/22(月)~11/28(日)の1週間限定でキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、冬休み期間中のこどもたちの食事支援強化のための「たべまな」の開催に必要な食費等として活用されます。

「JAMMIN×KAKECOMI」11/22〜11/28の1週間限定販売のコラボアイテム。写真はTシャツ(700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもパーカー、キッズTシャツ、エプロン、バッグなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインは、KAKECOMIの看板ねこの「蔵馬(くらま)」ちゃんをモチーフに、強いられたり無理をしたりすることなく、ありのまま、心地の良い空間で等身大で過ごせるKAKECOMIの雰囲気を表現しました。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね!

「ソーシャルなお茶の間」おいしいごはん、あたたかな空間を通して、社会からの孤立を防ぐ〜KAKECOMI

山本めぐみ:JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2014年からコラボした団体の数は360を超え、チャリティー総額は6,000万円を突破しました。

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この記事は、株式会社オルタナ『オルタナS/執筆:山本めぐみ』(初出日:2021年11月23日)より、アマナのパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせは、にお願いいたします。