「聴覚障害があるなら音楽ができない」と思われているが、間違っている。

聴覚障害とはまったく音が聞こえないことだと、長いあいだ誤解されてきた。だから「聴覚障害があるなら音楽ができない」と思われているが、これも間違っている。日常的に使われるTone-deafなどの言葉も、音楽やダンスの世界で活躍する聴覚障害者が少ないことも、そうした誤った解釈を助長している。 しかし、ローズ・エイリング・エリスはこの誤解をただす重大な挑戦をしようとしているのかもしれない。そう、イギリスで大人気の社交ダンス番組「ストリクトリー・カム・ダンシング」のダンス勝ち抜き戦に出場する初めての聴覚障害者として。

※Tone-deafは音痴という意味の英語で、直訳すると「音が聞こえない」という意味になる。

エイリング・エリスは英BBCの連続テレビドラマ「イーストエンダーズ」で聴覚障害のあるフランキー・ルイス役を演じる俳優だ。彼女は「ストリクトリー・カム・ダンシング」に出ることについてこう語った。「わくわくしますし、ちょっと怖くもあります……。聴覚障害のある人たちが誇らしく思ってくれたら、そしていろいろな障壁を破ることにつながれば、と願っています」

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そうした障壁の一つが、音楽とは(そして、もちろんダンスも)音がすべてだという考え方だ。重度の聴覚障害のあるパーカッション奏者エヴェリン・グレニーがこの誤った通念を打ち破ったのは有名な話である。彼女は振動を感じ取って打楽器を演奏する。筆者自身も聴覚に障害があり、楽器を演奏するときには間合いやリズムを頼りにする。ダンスの世界では、クリス・フォンセカが英BBCのダンスオーディション番組「グレイテスト・ダンサー」の審査員をうならせ、その後、聴力を失ったダンサーや難聴のダンサーのグループが演じるミュージックビデオの振付師として活躍するようになった。聴覚障害者は、何でもできる。それでも、聴覚障害者がなかなか受け入れられない職種もあり、課題はまだまだ残されている。だから、エイリング・エリスが「ストリクトリー・カム・ダンシング」に出演することの意味は大きい。

聴覚障害が障壁なのではない。障害のない人のふるまいが障壁になるのだ。

自分たちを障害者にしているのは、体の状態ではなくこうした社会障壁なのだと、多くの障害者が指摘する。障害者の平等を目指して活動する英国の団体Scopeはこう述べている。「物理的な障壁もある。多機能トイレのないビルなどがそうだ。一方、違いに対する人々の態度から生まれる障壁もある。『◯◯は障害者にはできない』という思い込みのように」

「ストリクトリー・カム・ダンシング」という番組が人々の態度をどんなふうに変えられるのかを、私たちはすでに知っている。ユーチューバーのジョー・サグ(英国の人気ブロガー・ユーチューバー、ゾエラの弟)が2018年にこの番組に出演したときには、インターネットのインフルエンサーの世界にまったく新しいファン層が加わった。サグは番組視聴者の心を捉え、票を集めて決勝戦まで上りつめた。その後、彼はロンドンのウェストエンドのミュージカル『ウェイトレス』に出演することになった。聴覚障害や身体障害に対する意識についても、同じようなことが起こらないと言い切れるだろうか?

聴覚障害が障壁なのではない。障害のない人のふるまいが障壁になるのだ。

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しかし、ここではっきりさせておかなくてはならないことがある。聴覚障害があるにもかかわらずエイリング・エリスが「ストリクトリー・カム・ダンシング」に出演するのは、驚くべきニュースではないのだ。にもかかわらず、と言うと「聴覚障害が障壁だ」と認めることになるが、すでに述べた理由から、そうした解釈は誤りだ。私たちの障害は、成功するために乗り越えなくてはならないものではない。障害のない人たちの側にしかるべき配慮をする気持ちがあれば、平等な立場で競えるのだから(そして「ストリクトリー・カム・ダンシング」について言えば、審査員から高得点を得られるか、視聴者の心をつかめるかが成功の鍵になる)。

障害者人権活動家として有名な故ステラ・ヤングが提唱した「感動ポルノ」という言葉を心に留めておくことも重要だ。ヤングはこう語っていた。「私はあえてポルノという言葉を使います。なぜなら、ある人たちのために別の人たちをモノ扱いしているからです。この場合、障害のない人たちのために、障害のある人たちをモノ扱いしているのです。……みなさんを感動させ、励ますために」

エイリング・エリスには、若い世代の聴覚障害者に感動を届けてもらおう。彼女は間違いなく、そうするだろう。だが聴覚障害のないあなた方は、彼女のがんばりに感動しないでほしい。

そうではなく、彼女がしていることを見て、「聴覚障害のある他の人たちが(もしかしたら文字通り足音を頼りに)彼女と同じ道を歩む際の障壁を取り払おう」と思ってほしいのだ。

  • 執筆を担当したリアム・オーデルは聴覚障害のあるジャーナリスト・活動家です。

この記事は、The Guardianよりリアム・オーデルが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはすべてlegal@industrydive.comまでお願いいたします。