経営方針のひとつとしてダイバーシティを推進する日本の企業が増えている。ダイバーシティとは、多様性を意味する言葉のこと。ビジネスにおける多様性とは、性別や年齢、国籍、障害の有無、宗教などに限らず、キャリアや経験などの働き方も含む。

海外ではすでに、「競争力の源泉」や「雇用機会の拡大や確保」を追求するために、ダイバーシティを経営戦略として活用している。

日本国内でも、経済産業省が推進するためのガイドラインを定めるなど、ダイバーシティ経営の関心が高まっている。

そこで今回は、ダイバーシティ経営の概要や取り組むことの成果、企業の事例を紹介していく。

「ダイバーシティ経営」とは

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ダイバーシティ経営とは、多様な人材を活かし、各々の能力や特性を最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげていく経営のことだ。

つまり、企業がいきいきと働ける環境を整えることで、組織内の人材から「自由な発想」が生まれ、新たな商品、サービスの開発につながることを目的とした経営のこと。

ダイバーシティ経営の目的は、ただ人材の多様性を高めることだけではなく、個々人にとって最適な環境で活躍し、経営上の成果につなげることが大切だ。

ダイバーシティ経営が推進される背景

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環境変化のスピードが加速化する中、企業が抱える課題は絶えず変化している。ダイバーシティ経営は、企業が競争優位を得るために必要な人材活用戦略だ。

この項目では、ダイバーシティ経営が多くの企業で推進される背景を紹介する。

生産年齢人口の減少

少子高齢化社会が進む日本では、国内の労働力人口は減少傾向が続いており、深刻な問題となっている。日本の総人口は2008年を境に減少している状態だ。2050年には日本の総人口は1億人を下回るともいわれている。

一方、生産年齢人口は総人口よりも早期に減少すると推測されているのは知っているだろうか。

そのような状態の中、従来の男性中心の雇用、フルタイム勤務が前提の労働条件では、人材の確保が難しい。そこで勤務形態、性別や国籍にとらわれない、多様な人々を積極的に雇用する動きが求められている。

女性活躍の推進

日本のダイバーシティ経営は「女性の活躍推進」をイメージする人も多いのではないだろうか。背景として、従来の日本的雇用慣行の存在があげられる。

日本的雇用慣行は「終身雇用」「年功賃金」「企業別組合」を軸とした戦後の日本経済を支えた雇用システムのことだ。

時代の変化に合わせて女性活躍を推進したことで、日本においてダイバーシティといえば、女性が積極的に活躍できる環境づくりが代表的なイメージとなった。

グローバル化にともなう市場環境の変化

グローバル化の影響もダイバーシティ経営が求められる理由のひとつだ。経済産業省は、グローバル化にともなう市場環境や顧客ニーズの変化にも言及している。

外国人顧客のニーズに応えるためには、海外の事情に詳しい人材や外国人スタッフの雇用が必要不可欠だ。

ダイバーシティ経営の3つの成果

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ダイバーシティ経営を行うと、労働力の確保に加えてさまざまなメリットがある。ここでは具体的に、3つの効果を紹介する。

1. 企業の価値創造につながる

多様な人材の雇用は、さまざまな価値観や考えなど、新たなイノベーションの創出を促す。多様性を尊重、反映することは、企業の価値創造につながり、顧客ニーズや市場変化が激しい現代において自社の個性を確立させられるだろう。

2. 社員の意欲向上につながる

ダイバーシティ経営は、多様な人材を採用するだけではなく、適切な配置で活用することも含まれる。社員ごとに異なる適正を見極め、能力を発揮できる環境整備を行えば、仕事に対する意欲向上ひいては生産性向上が期待できる。

3. 一般消費者や投資家からの評価が向上する

ダイバーシティ経営の成果を社外へ発信すると、一般消費者や投資家などステークホルダーからの評価にも良い影響を与えるだろう。企業イメージの向上は優秀な人材からの応募や、さらなる価値向上を招き、企業成長を促すという好循環を生み出す。

ダイバーシティ経営に取り組む企業事例

最後にダイバーシティ経営の取り組みによって、企業価値向上を達した企業が認定される『新・ダイバーシティ経営企業100選』の中から、取り組み事例を紹介する。

アクサ損害保険株式会社

アクサ損害保険株式会社は、自動車保険や生命保険、ペット保険など幅広い損害保険を取り扱う企業だ。

「期待を上回る顧客体験とイノベーションの提供」を志としており、実現のための施策としてダイバーシティ経営に取り組んでいる。

障害者雇用

障害の有無にかかわらず、誰もがインクルーシブ(周囲に受け入れられている)な職場を目指している。障害者雇用も施策のひとつで、一方的にサポートをするのではなく、周囲の社員に対しても学びのサポートを行い、互いに支え合う風土がつくられた。

女性活躍推進

性別に関係なく業績の公正な評価を行い、女性もキャリアアップを目指せる環境を整えている。女性の管理職や経営層への登用を推進しており、「女性管理職比率30%以上を目指す」など、具体的な目標設定と取り組みも顕著だ。

その実績が認められ、女性の活躍推進を積極的に行っている企業を対象とした「えるぼし認定マーク」「ふくい女性活躍推進企業プラス」の認定を受けている。

LGBTQ+(性的マイノリティ)のインクルージョン

企業全体の文化として、あらゆる性差別を禁止しているのもアクサ損害保険株式会社の取り組みのひとつだ。たとえば、就業規則における結婚の定義には同性婚を含めることを明記するなど、具体的な性的マイノリティへのインクルージョンを示している。

働き方改革と両立支援

働き方改革を推進するための取り組みとして、各本部に担当者を設置した。有給休暇の増加や在宅勤務の導入など、現代の多様化するライフスタイルに寄り添った制度や環境を提供し、プライベートとの両立を支援している。

味の素株式会社

味の素株式会社は、「アミノ酸のはたらき」を通じて、人々のウェルネスを共創することを目指すメーカーだ。加工食品や調味料、電子材料など、幅広い事業展開でグローバルに活躍している。

ワークライフバランス向上

企業全体で年齢や性別、国籍、経歴といった人財の多様性を重視した採用戦略で、イノベーションの創出を目指している。ワークライフバランス向上の取り組みは以下のとおりだ。

・育児中の時短勤務

・育児休暇の拡大

・フレックスタイム導入

・テレワーク制度の導入

・時間単位有給の採用

これらのほか、退社時間を1時間早める施策など独自の改革も進めている。育児中の社員が気兼ねなく子どもを迎えに行けるようになり、ほかの社員も夕方の時間を自由に使えるようになった。

女性人財の育成支援策

味の素株式会社は、人材を「人財」と呼び、性別問わずキャリアアップを目指せる支援も行っている。女性人財の育成支援策では、「ダイバーシティ推進タスクフォース」と「女性人財の育成委員会」を設置し、登用計画から具体的な支援を行う。

2030年度までに基幹職の女性比率を30%まで高めることが、現在の目標だ。

協和キリン株式会社

協和キリン株式会社は、「コミットメント・トゥ・ライフ」「イノベーション」「インテグリティ」「チームワーク/和・輪」の4つの価値観   のもと、世界中の人々のために価値を創造する製薬メーカーだ。経営理念や価値観とは別に、社員と経営陣が議論して作成した「私たちの志」を社員信条として掲げている。

女性の活躍推進

協和キリン株式会社では、かねてより女性経営職が増加傾向でありつつも、全体を見ると高い比率とはいえない状態だった。

そこで現在、女性社員のエンパワーメント推進に取り組んでいる。具体的な内容は以下のとおりだ。

・将来、経営職として活躍するためのトレーニング

・若手女性社員向けのキャリア研修など

2020年12月末時点で11.2%の女性経営職比率を、2025年末には18%以上にすることがこの取り組みの目標だ。2016年には「えるぼし認定マーク」も取得し、現在も維持し続けている。

ワーク・ライフ・バランス

性別問わず活躍できるよう、次世代育成支援に関する行動計画を策定し、実践している。たとえば家庭と仕事を両立できるよう、法定を上回る各種制度の導入や、配偶者の出産や子どもの看護などを理由に取得できるセルフマネジメント休暇を導入した。

子育てサポート企業として「プラチナくるみん」認定を受けたり、仕事と介護の両立を環境づくりでサポートする企業として「トモニン」認定を受けたりと、実績も豊富だ。

障害者雇用

2013年1月に「協和キリングループ障害者雇用推進宣言」を制定し、障害の有無にかかわらず、誰もが活躍できる社会の実現に取り組んでいる。2016年には障害者相談窓口を設置するなど、職場における差別の解消や合理的配慮の提供など、より積極的な対応を行える体制を整備した。

上記の他にも、協和キリンでは、CSV経営を通してダイバーシティの推進に取り組んでいる。協和キリンが行っているCSV経営についてはこちら

まとめ

ダイバーシティ経営はグローバル企業のみに求められるものではなく、いまや日本中の企業が取り組むべき経営戦略だ。多様性を尊重した働き方改革から生まれるイノベーションによって、より良い社会の形成、持続可能な世界を目指せるだろう。