医薬品の世界でも進むグローバル化。世界に広がる医薬品の安全性に関わる情報をいち早く、正確に把握し、世界中の患者さんの治療に役立てることが、グローバル展開する製薬会社に求められている。そのためになくてはならない重要な役割を担うファーマコビジランス(以下、PV)本部は、日々どのような業務を行っているのだろうか? また、彼らの業務は世界の人々の健康への貢献を目指す協和キリンの未来にどのようにつながっているのか? PVメディカル部メディカルセーフティグループの西村 美紀さん(写真左)とメディカルドクター葉山 佐和子さん(写真右)に、話を聞いた。

 

【話を聞いた2名】

西村 美紀(にしむら みき)

協和キリン株式会社 ファーマコビジランス本部 PVメディカル部 メディカルセーフティグループ所属 2018年入社。腎領域製品を担当し、医薬品および治験薬に関するファーマコビジランス関連業務の統括、他部門との連携を行う。

葉山 佐和子(はやま さわこ)

協和キリン株式会社 ファーマコビジランス本部 PVメディカル部 メディカルセーフティグループ所属 マネージャー 臨床医を経て、2020年に入社。医学的観点からの安全性情報の評価を主に行う。医師(メディカルドクター:MD)

 

医薬品のライフサイクル全般で安全監視活動を下支え

PV本部は、医薬品の研究開発段階から市販後までのすべての過程にわたって適切な安全監視活動をグローバルで行う体制として、大きく4つの機能(メディカル、オペレーション、コンプライアンス、プランニング)と4つの地域(日本、EMEA、北米、アジア・オセアニア)に基づいたマトリックス組織を構築し、グローバルで連携した形で2020年4月に発足した。西村さんは、PV本部の役割をこのように説明する。
0247.jpg

画像:西村 美紀(協和キリン株式会社)

私たちは、医薬品の開発から市販後までの医薬品の安全性に関する情報を医療従事者などから収集し、それらの情報からリスクの検討、評価をしています。そのうえで、リスクを最小化するために患者さんや医療現場に伝えるべき情報をお届けする部門です

こうした役割をなぜグローバルで連携しながら進める必要があるのか。それは、グローバル・スペシャリティファーマとしてLife-changingな価値の継続的な創出を目指している協和キリンにとっては、自然な流れだった。

当社は、グローバル・スペシャルティファーマを掲げて会社としてグローバルな主力製品の開発、上市を目指しています。1つの製品の安全性情報は、国内外関わらず情報のやりとりを実施し各国へ報告する必要があるので、グローバルでの安全性情報の一元管理、共有は不可欠でした。2016年にはグローバルで1つのデータベースを作って情報を一元的に収集、管理できるようになったので、今はリスク評価に力点を置いています“

グローバルPVの組織体制には、ヘッドのリーダーシップのもと、大きく分けてオペレーション、メディカル、コンプライアンス、プランニングという4つの機能がある。それぞれ具体的にはどのような業務を担っているのか。

※協和キリン株式会社は、病気と向き合う⼈々の満たされていない医療ニーズを⾒出し、その課題を 解決するための新たな薬やサービスを創造し、提供することで、患者さんが 「⽣活が劇的に良くなった」と感じ笑顔になることをビジョンとして掲げています。

index_img_02.png

図: グローバルファーマコビジランス組織体制図 (協和キリン株式会社HPより抜粋)

まず、オペレーションは患者さんの副作用情報の収集から評価、各国への個別症例報告及び定期報告などを担っています。メディカル・セーフティは、オペレーション部隊が集めてまとめた情報を医学・科学的な観点からタイムリーにリスク評価し、患者さんへの影響などから、どのような対策を実施すべきか検討します

 コンプライアンスでは、例えば同じ製品でも国・地域によっては他社が販売している場合がありますので、各国の規制や各社との契約を遵守できているかを監視しています。プランニングは、地域間、部署間の調整や人材交流などを通じてファーマコビジランス本部の組織体制を支えています“

0042.jpg

画像:西村 美紀 取材風景

サイエンスに基づき、各地域で差異のない安全性評価を行う

これら4つの機能が、日本、北米、欧州、アジア太平洋地域でそれぞれ動いており、多彩なバックグラウンドを持った総勢約200人がグローバルPV活動に携わっている。その一人、同じくメディカルセーフティグループの葉山さんは、医師(メディカルドクター:MD)として医学的観点からの安全性情報の評価、安全性確保措置の立案を担う。

0260.jpg

画像:葉山 佐和子(協和キリン株式会社)

“もちろん、規制や医療環境、習慣、遺伝等民族的要因など影響を考慮すべきこともありますが、サイエンスに基づいた安全性情報の評価は地域ごとに大きく異なることはありません。同じ製品を世界各地で扱う企業の責任として、グローバルでの連携を強化して筋の通った、各地域で差異の生じないコア情報としての安全性評価・安全施策をすることが重要です”

葉山さんに日ごろの業務でMDとして特に意識していることを聞いてみると、患者さんの症状を常に間近で捉える臨床医の経験豊富な彼女ならではの答えが返ってきた。

0057.jpg

画像:葉山 佐和子 取材風景

“医師や薬剤師など医療現場の人たちは、どのような情報が必要とされまた欲しているのか。一方、医薬品を投与される患者さんにとって、その安全性情報がどう役立つのか。こうした医療現場の視点をもって、自分が見ている情報を事象の重篤性だけではなく接することを忘れないようにしています”

 “患者さんは薬剤に治療効果のみを期待しますが、実際は副作用がでることもあります。その効果に対して許容できる副作用も患者さんごとに異なることがあります。ですので、その薬剤がどういう使われ方をしてどういう効果を期待されているのか、その上でどういった副作用の情報が必要なのか、そういった患者さんの目線に寄り添いながら副作用情報の伝達を検討することも、私が貢献できることだと思っています”

副作用の予測、予防で医薬品の価値を高める

ar2020.png

図:ファーマコビジランス本部 Global PV Vision 2025 (『協和キリン アニュアルレポート2020』P30より)

 

協和キリンでは、2021年度から新たな中期経営計画がスタート。これに伴って、PV本部でも世界各国の全社員から2025年のありたい姿についてアンケートで意見を募りながら「Global PV Vision 2025」を作成した。2025年に向けてPV本部が目指す方向性について、葉山さんは期待感を込めながらこう話す。

“PV活動は医薬品の適正使用の推進と患者さんの安全性確保が目的ですが、さらに医薬品の価値・有用性を高めて患者さんの医療に貢献するのが2025年ビジョンだと捉えています。集まったさまざまな情報を解析、評価することで、副作用を予測、予防できて患者さんの医療の質の向上に貢献するという、革新的な科学的手法が可能になることを目指します。野心的ですが、挑戦する価値があり、わくわくするビジョン。元臨床医の立場からも、非常に面白いと思っています“

前半02.png

画像:取材中の葉山 佐和子(左)と西村 美紀(右)

西村さんもこう呼応する。

“当社は疫学チームも持っており、予測、予防についてはまだ形にはなっていないものの、取り組む準備はできています。2025年ビジョンは、予測と予防を本気で実現していき、業界リーダーとして全員で上を目指そうという目標で、私としても置いていかれないように頑張ろうと改めて思っています”

 

医薬品の新たな可能性を広げ、世界中の患者さんの安心・安全に貢献し、患者さんに笑顔をもたらすことを目指すファーマコビジランス本部。後編では、グローバルで連携しながら日ごろどのような思いを持って業務に当たっているか、欧州と日本のメンバーで対談した内容をお届けする。

後編はこちら