英国イングランドのデボン州に住む4人のティーンエージャーは、進路を決める大事な試験であるGCSEやAレベル※の受験勉強に忙しい日々を送る中で、イングランド各地の学校で使われるメンタルヘルス教育の授業プランやニュースレター、ビデオを作成する時間まで確保している。※GCSEはGeneral Certificate of Secondary Educationの略で、義務教育修了時の16歳で受験する統一試験。AレベルはGCE-Aレベル(General Certificate of Education, Advanced Level)のことで、通常18歳で受験する統一試験。どちらも一般的な大学入学資格として知られている。

14~16歳の4人は、ティーンエージャーである自分たちがぶつかる問題に、彼ら自身に響く言葉で応えてくれる教材が、なかなか見つからないと感じていた。そこで、自分たちで作ることにした。

彼らが扱うテーマは、ロックダウンが若者にもたらす影響から、良質な睡眠の大切さ、「死にたい」という悩みとの向き合い方まで多岐にわたる。大人の専門家からアドバイスを受けているが、最終的にはコンテンツの細部まで自分たちで作り込み、彼ら自身の言葉を届けるように心掛けている。

Spark UK」と名付けられたこのグループは全国で注目を集めるようになった。ジョニー・ウィルキンソンやエマ・トンプソン、スティーヴン・フライ、スティーブ・バックシャルなど、俳優やスポーツのスター選手、大物タレント、有名な探検家などにも声をかけ、自らのメンタルヘルスについて語ってほしいと願い出た。そのメッセージ映像は、クリスマスに向けて一つずつ開封するアドベントカレンダーのように、日替わりで投稿される予定だ。

Spark UKの創設者であるコナー・ウォーレン(15歳)は、すべてが「ティーンエージャーによるティーンエージャーのためのコンテンツ」であることが肝心だと言う。「大人の指導のもとで運営されている団体なら、いくらでもあります」とコナー。「でも、あれをしろ、これをするなと言う大人がトップにいない、ティーンエージャーが自分たちで運営するものは、他に見たことがありません」

コナーらは、デボン州のイルフラカムという町にある学校で出会った。編集会議は、コナーの家でピザをつまみながらするのがお決まりだ。彼らが作る教材は、デボン州内にとどまらず、ブリストルやロンドン、リンカンシャーといった遠く離れた町を含め、多数の学校で活用されている。嬉しいことだ、と彼らは言う。

Spark UKではこれまで、自信や自尊心、社会不安の他、テストを受けるときやニュースを追いかけることで感じるストレスなどのトピックについて、授業で使う教材やニュースレター、ポスターを作ってきた。コンテンツは無料で提供している。「ただ、善いことをしたいだけなんです」とコナーは語る。「変化を作り出して、できるだけ多くの人を救いたいと思っています」

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デボン州には、同地域内の北部で若い男性が自殺した事件を受けて立ち上げられたAsk for Jakeという慈善団体がある。この団体は、薬物やアルコール、自傷行為や自殺といった問題について救いの手を差し伸べることを目的としており、Spark UKは同団体の専門家からもアドバイスをもらっている。感謝などのトピックに関する「軽い」コンテンツも含め、Spark UKではすべての内容について教員や支援団体の専門家に相談している。

コンテンツの責任者であるブライディ・ダウニング(16歳)は、大人に心の悩みを打ち明けても「ホルモンの問題」だと言って聞いてくれなかったという話を何度も耳にした。親は、子どもの心の悩みに触れたがらない気がする、とブライディは言う。「自分の子どもが悩んでいる姿を見たら、大人はよく自分を責めます。でも、問題を遠ざけるべきではないんです。先生は先生で大きなプレッシャーを抱えていて、子どもに手を差し伸べる暇はないし、トレーニングも受けていません」

4科目で Aレベルの取得を目指して勉強に励むブライディは、将来はセラピストになるか、ソーシャルケアの業界で働きたいと考えている。彼女は、自殺などの問題に触れるのを恐れている大人が多いような気がするという。「話をすることで、そのきっかけを与えてしまうと思っているのでしょう」

Spark UKが目指したのは、視聴者を委縮させたり、ひるませたりしないようにしつつ、大きな問題を取り扱うことだとブライディは語る。彼女たちはティーンエージャーでありながら、大人になった時にSpark UKをどう続けていくかをすでに考えており、ターゲットである視聴者に響く言葉をこの先も届けていくには、自分たちよりも年下の人材を探さなければならないと意識している。

読み物系のコンテンツを統括するジョセフ・カーター(14歳)は、英国全土の学校で使える完全なカリキュラムを作ることが目標だという。「メンタルヘルスへの意識を高めて、若者が自分の経験を声に出せるように背中を押したいです」と彼は話す。「メンタルヘルスは誰にでも関係があります。でも、今もまだ古臭くて偏った見方が付きまとっているように感じています」

この記事は、The Guardianよりスティーブン・モリスが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはすべてlegal@industrydive.comまでお願いいたします。