2021年8月25日シドニー
家畜の飼料の素材として使う海藻「カギケノリ」の商品化を進めている企業が、歴史に残る大きな成果をあげた。民営の畜産場に自社の技術を応用し、この画期的な海藻による、メタンの放出を抑えた牛肉の生産に世界で初めて成功したのだ。
カギケノリの国際特許を持つフューチャーフィード社は、この海藻を用いてメタンの放出を抑えることに成功した世界初の牛肉をお披露目して成果を祝った。今回の試みに協力したニューイングランド大学、豪牛肉加工企業オーストラリアン・カントリー・チョイス社、豪スーパー大手ウールワース社も同席した。
低排出の牛肉を実現した立役者であるカギケノリというこの赤紫色の海藻には、消化の過程において、牛の腸で特定の酵素の働きを弱め、メタンの生成を自然に抑える性質がある。それにより、放出されるメタンの量を80%以上減らせることが分かっている。
今回の試みで低排出の牛肉を実現できたことは、牛肉の畜産市場に応用できる方法を用いて低メタンの食肉を目指す中で、大きな意味を持つ節目だとフューチャーフィード社のCEOリーガン・クルックス博士は言う。
「科学に基づいた解決策が現場での実用化に至るのを目の当たりにするのはすごいことです。賞賛に値すると思います。今回の牛肉は、当社の技術を畜産市場で実用化していく第一歩です。今後、我が社が認証した牛肉が、オーストラリアだけでなく世界中の食卓にのぼる機会が増えていくと期待しています」
「気候変動は今まさに起きていて、気候変動に関する政府間パネル(IPCC) が先日発表した報告書によると、大気中のメタン濃度はここ何十万年のうちで最も高くなっています。畜産部門への風当たりはますます強くなるでしょう。そんな中、メタンを大幅に削減できることを畜産の現場で実証し、解決策を示すことができたのは、ちょうどいいタイミングでした」
「この海藻の安全性と効果は、科学によって裏付けられています。今後急速に供給を増やしていくことになると予想されるので、国内外問わず、成長著しい海藻養殖業者の皆さんに期待を寄せています」とクルックス博士は語った。
この特許技術は、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)、オーストラリア産牛肉の生産者団体MLA、ジェームスクック大学と共同で開発された。フューチャーフィード社は、世界各地の海藻養殖業者にカギケノリの生産と販売の認可を与えている。
フューチャーフィード社のチーフ・サイエンティストであるロブ・キンリー博士は、ニューイングランド大学の附属農場であるタリンバ・スマートファームで64頭の牛を対象に行った試験について、科学に基づく方法が実用化に至る可能性を示した点で、大きな意義があったと話した。
ウールワース・グループはフューチャーフィード社に出資し、今回の実用化試験にも協力した。
ウールワース・グループの食肉部門「グリーンストック」のマネージング・ディレクターを務めるアンナ・スピアは、サステナブルな暮らしや買い物への後押しをスーパーや食肉産業に期待するお客様の声は、ますます高まっていると話す。
「私たちは、オーストラリアの畜産農家の方々が、低排出を特長とする世界に誇る最高品質の牛肉の生産を続けていけるようフューチャーフィードを支援しています」
「低炭素の未来に向けて新たな技術を取り入れようとする畜産の取り組みを支えるため、私たちにできることをしたいと考えています。今回の試みが、牛肉生産の未来にとって重要な一歩となることを願っています」とスピアは語る。
オーストラリアン・カントリー・チョイス社のアントニー・リーCEOは、社として今回の試みに参加できたことを誇りに思い、この技術が実用化されるのを見て勇気づけられていると話した。
「カギケノリによる課題解決を目指すフューチャーフィード社のアイデアは素晴らしいと思います。この海藻は、通常の混合飼料に足して使える自然の素材です。シンプルさが魅力ですね。自然のものを口にしたいという人々の希望をこの方法で叶えることができます。それに、科学的な裏付けもしっかりしているので、安心して安全に使っていただけますし、効果も実感いただけるはずです 」
「食肉産業における排出削減の取り組みが他の産業より進んでいるのは、新しい技術を積極的に取り入れようとしているからです」とリーは言う。
クルックス博士は、カギケノリによる排出削減を、牛肉ブランドの販促に使えるのではないかと語る。
「生産者の皆さんが、カギケノリを使う利点を収益に変える方法はたくさんあると思いますよ。自由炭素市場や各国の炭素市場を利用したり、高級品として消費者にアピールしたりするのもひとつのやり方です」とクルックス博士は言う。
「当社では今、登録商標とその基準となる規格の作成を進めています。そうすることで、バリューチェーンや消費者の皆さんに、当社が科学的に求める規格を満たした商品だと分かった上で安心して買っていただきたいと考えています」
「認定事業者の皆さんが、カギケノリを利用して削減できた排出量を確認できるように、ブロックチェーン技術に基づくデジタル・トレーサビリティ・プラットフォームの開発も進めているところです」
この記事は、Agriculture Timesで執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはすべてlegal@industrydive.comまでお願いいたします。