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農業が盛んなカリフォルニア州コーコランの航空写真(撮影日:2021年7月24日) 気候変動で深刻化する干ばつに見舞われ、大規模農場がやむを得ず多くの地下水をくみ上げた結果、徐々に地盤沈下が進んでいる――© AFP By Camille CAMDESSUS

「あちこちで数え切れないほどの農家が水をくみ上げています」 カリフォルニア州コーコランに住む80代のラウル・アティラノは不満げにそう話す。コーコランは、同州の「農業の都(farming capital)」を謳う町だ。この町に起きた実に奇妙な現象にアティラノは困惑している。すでに災難に見舞われているこの地が、今度はじわじわと地面に沈みかけているというのだ。

人口2万人のこの町から、動物の飼料として利用されるアルファルファ牧草やトマト、綿を運び出すトラックの列が途絶えることなく続いている。この光景は、コーコランの運命が、この地で行われてきた集約農業と切っても切れない関係にあることを表している。

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コーコランを出てすぐのところにある看板。州の「農業の都(farming capital)」であることを謳っている。今は干ばつのせいで、この町の農場は悪循環から抜け出せないでいる――© AFP

広大な土地に水を引いて国民への食料供給を支えるため、農場経営者らは1900年代から地下水を利用しはじめ、地盤沈下を引き起こすほど大量の水をくみ上げてきた。雨水がまだ地面に浸透しないうちに、巨大なストローが次から次へと地下水を吸い上げているようなものだと水文学者のアン・センターは説明する。

――2階建ての家が地に沈む――

不思議なことに、こうした地盤沈下の兆しは人の目にはほとんど分からない。町の中心部に建ち並ぶ、この国らしい商店の壁はひび割れていないし、道路や農地に割れ目があるわけでもない。地盤沈下を測定するために、カリフォルニア州当局はアメリカ航空宇宙局(NASA)に協力を仰ぎ、人工衛星を使って地質学的変化を解析してもらう必要があった。

実際には、コーコランでは過去100年の間に「住宅2階分の高さに相当する」地盤沈下が起きていた。そう教えてくれたのは、カリフォルニア州水資源省でマネジャーを務めるジェニーン・ジョーンズだ。

この現象は「今あるインフラや地下水井戸、堤防、水路を脅かす恐れがあります」とジョーンズは言う。

この危険な変化が目に見える形で表れているのが、町のはずれにある堤防だ。綿のかたまりが空中にただよう一帯にその堤防はある。2017年、州当局はこの堤防をかさ上げする大規模なプロジェクトを立ち上げた。やがて雨がまた降るようになれば、盆地にあるこの町は、すぐにでも水浸しになりかねないと恐れて手を打ったのだ。

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コーコランにある堤防付近に立つラウル・ゴメス(左)とグレッグ・オジェダ(右)(撮影日:2021年7月23日) 2017年、この堤防はまだ見ぬ洪水に備えてかさ上げされた――© AFP

ところが今年問題となったのは、洪水ではなく、気候変動によって深刻化した驚異的な干ばつだった。

干ばつは、米国の穀倉地帯であるこの地を土けむりの舞うだだっ広い土地に一変させ、州当局は農家に対して水の使用を規制せざるを得なくなった。

そして今、コーコランは悪循環にはまり込み、抜け出せなくなっている。水の供給が制限される中、農場経営者はもっと多くの水を地下からくみ上げるほかなく、地盤沈下に拍車をかける結果となっている。

――失業の恐怖――

この問題に堂々と意見する住民はほとんどいない。地下水をくみ上げているのが巨大なアグリビジネス企業で、住民の大半がまさにそういう企業に勤めている現状を見れば、無理もない。

「そういう企業を声高に非難すれば、職を失うかもしれないと恐れているのでしょう」とアティラノは言う。彼には、米国有数の綿大手J.G.ボズウェル社に数年間勤めた経験がある。町の至るところで、綿が詰め込まれた袋がずらりと並んでいる光景が目に入るが、その袋にはJ.G.ボズウェル社の名前が記されている。

「私は気にしませんよ」とアティラノは微笑む。「退職して22年になりますから」

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コーコランを含む一帯は綿の一大産地。綿が詰め込まれた何千もの袋はすべて、米国綿大手J.G.ボズウェル社のものだ――© AFP

大規模な農場運営では機械化や産業化がどんどん進み、地元の労働者は次第に必要とされなくなっている。こうした背景のもと、この町の住民たち自身、経済的にも気分的にも活力を奪われるような不況に沈んでいる。

現在、この町に多く住むヒスパニック系の人々のうち、3分の1が貧しい生活を送っている。かつて町を活気づけていた3つの映画館はすべて閉館した。

「たくさんの人がここを離れていきます」と、コーコランに住む77歳のラウル・ゴメスは話す。

今年の夏の午後、猛烈な熱波のもと、巨大な壁画の影で立ち止まって雑談をする人たちがいた。

その壁画には、透き通った青い湖と、その湖を囲うように連なる雪を頂いた峰が描かれている。今となっては、遠い夢となってしまった景色である。

この記事は、Digital JournalよりAFPで執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはすべてlegal@industrydive.comまでお願いいたします。