フランスのエマニュエル・マクロン大統領は6月10日、サヘル地域に展開中のフランス軍を縮小すると発表した。本記事では、深刻な問題を抱えるサヘル地域の情勢と、同地域の国際政治における立ち位置について解説する。

サヘル地域とは?

アラビア語で沿岸や海岸を意味する「サヘル(Sahel)」は、サハラ砂漠の南縁に沿って、大西洋から紅海まで延びる広大な地帯だ。

北は砂漠、南は熱帯林とサバンナに面する帯状の地域で、半乾燥気候にあたる。

どの国が含まれる?

サヘル地域に属する国についてはさまざまな見解があるが、ブルキナファソ、チャド、マリ、モーリタニア、ニジェールの5カ国は同地域の中核を成す。これらの国々は、ジハード(聖戦)を謳うイスラム過激派に対抗する同盟「G5サヘル」を構成する。

上記に加え、セネガル、ナイジェリア、スーダン、南スーダン、エリトリアの一部も含まれると定義する場合もある。

イスラム過激派の戦場

荒れた砂漠が果てしなく続き、国境が抜け道だらけのサヘル中部は、武装集団や反政府勢力、イスラム過激派、犯罪集団にとって、敵や獲物を狙うのに格好の場所となっている。

2012年には、マリ北部で起きた武装蜂起に続いて、イスラム過激派による暴動が勃発した。この紛争は同国の中心部にも広がり、やがて隣国のブルキナファソやニジェールにも波及。結果として、数千人の命が奪われ、数十万の人々が住む場所を追われた。

サヘル地域の中でもニジェール、マリ、ブルキナファソの国境線が交わる「3国境エリア(tri-border area)」は、特に紛争が起こりやすく、流血の絶えない場所となっている。

このエリアでは、フランスのバルカン作戦やG5サヘルの合同軍など、イスラム過激派に対し数々の軍事作戦が繰り広げられてきた。

フランスは近年、バルカン作戦で総勢5,100人の兵士を派遣していたが、マクロン大統領は6月10日、「このままサヘル地域にフランスが軍事介入を継続するのも潮時だ。これまでと同じように続けていくわけにはいかない」と述べた。

気候変動

世界が気候変動に立ち向かう中、サヘル地域は地球温暖化による影響を5割増しで受けている。1975年から2000年にかけて、同地域は世界最悪の干ばつに見舞われた。

この干ばつにより、チャド湖の面積は60年前に比べ、なんと90%も縮小してしまった。チャド湖を囲む4カ国の4000万人の人々にとって、この湖は主要な淡水の供給源だ。その枯渇を阻止すべく、必死の取り組みが進められている。

2019年2月には、サヘル地域の気候変動対策のため、2030年までに4000億ドル(約44兆円)を投じる計画が同地域の国々によって打ち出された。

人口増加の重荷

貧困に苛まれる同地域は、世界でもっとも人口増加率が高い地域の一つでもある。

国連によると、G5サヘルの総人口は2050年までに倍増して約1億7000万人を超えると予測されている。

また、不安定な情勢や貧困、気候変動の中、同地域で強制移住を余儀なくされた人々の数は2年足らずの間に20倍になり、飢餓に苦しむ世帯数は3倍になったと国連は指摘している。

国連は、ブルキナファソ、ナイジェリア北東部、南スーダンで飢饉のリスクが高まっていると警告した。マリとニジェールも飢餓のリスクが高いとしている。

新型コロナウイルス感染症のパンデミックで問題はさらに深刻化している。だが、ワクチン接種は進んでいるとはいえない。

 

 

オリジナル記事The Sahel: Terror, poverty and climate changeDigital Journalに掲載されたものです。

この記事は、Digital JournalよりAFPで執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはすべてlegal@industrydive.comまでお願いいたします。