世界には循環のためのどのような取り組みがあるのか。最新のトピックを紹介します。今回は、アーティストが集結し、アップサイクルについて考えたイベントをレポート!

Portland Textile Month

テキスタイルにまつわるワークショップや展示、トークショーなどが1ヵ月にわたり、開催される「Portland Textile Month(以下、PTM)」。3年目を迎えた昨年2020年には“リペア(修復)&リユース(再利用)”をテーマに、廃棄に至りがちな資源とテキスタイルを融合させた50以上のプロジェクトがアメリカ・ポートランドのカフェや店頭を彩った。その中から、“不用品を再生することはコミュニティを編み合わせること”と考えた4組のアーティストと作品群を見てみよう。
www.portlandtextilemonth.com

Embrace the Waste

Tシャツやプラスチック袋を生活雑貨に。

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量り売りの利用を心がけるナタリー。大好きな袋菓子を買うのもやめたほど。

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プラスチック袋を裂いて作ったコースター。

PTMのワークショップではそんな経験をもとに、プラスチック袋などを用いて、特別な道具や技術なしで簡単に織物ができることを提案。さらに驚くのが、織物に欠かせないフレームも段ボールや食品のプラスチックトレーで代用する知恵だ。しかも好みの大きさにカットするだけで小物作りは十分という手軽さ。

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Tシャツを再利用したマクラメ。マスクのゴム代わりにも。

「参加者には学校の先生も。子どもたちと一緒にやりたいと言ってもらえて嬉しかった」。なぜならナタリー自身がそうだったように、早期からの教育により、環境問題は身近に、楽しく、柔軟に取り組めるようになるからだ。

Sharing the Shuttle

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完成した織物には偶然穴ができた。「首を通せば纏うこともできる。8歳の息子のアイデアよ」とシンシア。参加した人のサインも(左上)。撮影協力/PLACE

「素材は全て誰かの家で眠っていたもの。友人や知人、コミュニティに呼びかけたら、大量の生地や紐が届いたの。それを見知らぬ人同士が並んでシャトル(経糸に緯糸を通すのに使う道具)を渡し合いながら共に織る過程で、どんな作用があるのか。そんなことを考えながらこのプロジェクトを始めました」とマルチアーティストのシンシア・スター。結果、約20人以上が参加し、長さ10メートル近くもの大きな一枚が仕上がった。img_1d133f321008c5f225020ff8b9fbeeee405934.jpg

「人によって同じ素材でも織り目が緩かったり、きつかったり。面白いことに、その人の心理状態をも映し出していたの」。シャトルの動きには気持ちを落ち着かせる働きも。共同の機織り作業は、織る人の恐れを解放し、全体にヒーリングをもたらす作用もあったとか。様々な人が心赴くままに織った末に、コミュニティとしての調和も生まれたのだ。

Cotton+Wool

Tシャツ+フェルトで冬のレイヤードに。

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「メリノやアルパカなど高品質の繊維動物の(皮を取らずに)毛だけ刈り取り、愛情を込めて育てているオレゴンの女性とその家族の農場に出会えたのも幸運でした」。撮影協力/Shop Boswell

持続可能なシンプルライフを志すクリスティーナ・フォーリーにとって、環境に優しく、実用的で、美しいライフスタイルと交錯したところにアートは宿る。「そこで地産のウールをフェルト化し、中古のTシャツを防寒着に早変わりさせるアイデアが閃きました。“修理と再利用”がテーマのPTMへの挑戦でもあります」。

 

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地元のものを慈しみ創造する生活は長年暮らしたイタリアからも学んだ。

「今、急速に深刻化する気候変動問題も考慮しました。新しい服を闇雲に買うのではなく、手元にあるTシャツに地元のファームで大切に育てられた羊の毛を結合する知恵を生む。身の回りにすでにある豊かさに気づき、それを実用化させることも私にとっては大切なアートであり生活の一部です」
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左から機織りや羊毛を紡ぐシェルビー、人形作家のシャー、リサイクルアートを手がけるエミリー。撮影協力/Crema Coffee + Bakery

アーティストのエミリー・ミラー、シャー・コールマン、シェルビー・シルバーの3人が、各地の浜辺から集められたプラスチック漁網から人形を作成。「変革の海の物語」という人形劇を創作しながら配信も行ったインスタレーション企画。

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ユニークなのは、街のカフェの片隅で大量の漁網と戯れながら製作する過程を1ヵ月にわたって観覧できたこと。さらには市内各所で材料キットを配布し、一般の人たちも人形作りに携わり、物語の一部となれる仕掛けを配したことだ。

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「漁師やサーフライダーたちのレスキューネットワークには感謝しているわ」とエミリーとシェルビー。

「使い道のない大量の網を前に私たちは無力感に苛まれがちですが、これを創造の糧と捉えて引き寄せると、そこには様々な物語や喜びが生まれる。それらをコミュニティとつなぎ合わせて広めていくことで、アーティストとして自然環境という巨大な問題に取り組めると信じています」
www.ghostnetart.com
www.sherecoleman.com
www.shelbysilver.com

●情報は、FRaU2021年1月号発売時点のものです。
Photo:SHINO Text:Sakiko Setaka Edit:Asuka Ochi