イラクでは物価が急上昇し、通貨(ディナール)の購買力が弱まり、失業者が増えている。そんな中、人々は重苦しい不安を抱えながら、イスラム教の断食月「ラマダン」を迎える。

「1日中断食したら、何かお腹に入れなければなりません」とシングルマザーのウム・フセインは言う。トマト1キロの値段が以前の2倍以上であっても、食べないわけにはいかない。5人の子どもを育てる彼女は、定収入がない。

質素な住まいの家賃は45ドル(約5,000円)ほどだが、その工面にも毎月苦労している。

人口4,000万人のイラクでは、1,600万人が貧困ライン以下の暮らしをしている。その1人ウム・フセインも、日々の食料を配給カードに頼っている

1990年代、サダム・フセイン政権は、国際社会から厳しい経済制裁を受けた。その頃始まった仕組みにより、イラクでは、世帯主の収入が月1,000ドル(約11万円)未満のすべての国民が、政府の補助金により、特定の基本的な食料を安く買うことができる。

だが今年は「2月に配給があっただけ」とアブ・セイフ(36歳)は言う。彼は父のあとを継ぎ、配給品を住民に配布する仕事をしている。

「ラマダンのための配給は、まだありません」。4月半ばに始まるラマダン期間中、イスラム教徒は、日の出から日の入りまで断食をする。

ムスタファ・アル・カーズィミー首相は、聖月ラマダンのために臨時の配給をすると約束した。しかし「住民からは毎日、直接あるいは電話で、配給はいつあるのかと催促されている状況です」とアブ・セイフは打ち明けた。

アブ・アマルは、経営する食料品店の資金繰りがかなり厳しくなり、業者への支払いができなくなるのではないかと恐れている。

物価が急激に上がったため、支払いが20万ディナール(約1万5,000円)以上溜まっている家庭もあるという。

石油資源に恵まれたイラクだが、石油価格が世界的に下落し、国の収入が減った。政府は昨年、ディナールを対ドルで25%切り下げた。

その結果、1瓶1,500ディナール(約110円)だった食用油の価格は、2,500ディナール(約190円)にはね上がった。

笑いごとではない

価格の上昇に加えて、新型コロナウイルスによるロックダウンや夜間外出禁止令のために、仕事が減った。特に、数十年の紛争のあと、多くの国民が生計の柱とする定職への打撃は深刻だった。

国連食糧農業機関は、イラクの人々は悪循環に陥っていると説明している。

「食料や農業関連の中小企業の90%以上が、パンデミックにより、ある程度もしくは深刻な影響を受けたと報告しています。収益が下がったため、50%以上が従業員を解雇するか、給料を減らしたのです

イラクのソーシャルメディアには、こんなジョークが書き込まれている。

「新型コロナに、イード・アル・フィトル(ラマダン明けを祝う祭り)が加わり、今年は我々の給料で乗り越えられるか、そして次のラウンドまでもつのか。」

公務員のハイダル(32歳)は、笑い事ではないと言う。

「ラマダンのことを考えると、不安でいっぱいです。用意しなければならないものがたくさんあるし、子どもたちに新しい服も買わなければならないのですから」

普段でさえ、月600ドル(約6万5,000円)の給料から、家賃や日々の生活費、電気代をやりくりするのに苦労している。

電気代は家計を圧迫する出費のひとつだ。1日に20時間停電することもあるイラクでは、高価な燃料を使う自家発電機に頼らざるを得ないからだ。

同じ職場で働くアブ・アフマド(32歳)は、今年のラマダンは、伝統的なことはやらないという。

「自宅で大人数での食事はしないつもりです。コロナを広めないために」と彼は言う。「そんなお金もありませんしね」

 

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