大勢の人々が血を流すシリア内戦の最中、ムハンマド、アイハム、オクバ、ムサの4人は、ジャーナリストとして修練を積んできた。現在、スペインの首都マドリードに住む4人は、スペイン初の難民によるデジタルマガジン『Baynana』の運営を始めた。
Baynanaとは、アラビア語で「架け橋」を意味する。4月7日にオープンした同メディアは、オンラインで提供される革新的な「雑誌」だ。
4人とも、シリア南部のダルアーという街で生まれ育った。ダルアーは、2011年にバッシャール・アル・アサド大統領に対する暴動が起き、シリア内戦が始まった地でもある。
彼らは2019年初頭にトルコに避難し、同年5月、報道の自由を監視するニューヨークのジャーナリスト保護委員会(CPJ)の助けを借りてマドリードに移り住んだ。
「内戦が始まった時、僕は12歳でした。でも、何が起きているかはちゃんと理解していました。家の近くやモスクの中で、デモをしている人が大勢いたので」。そう語るのは、4人の中で最年少のオクバ・モハメド(22歳)だ。
内戦勃発から4年後、オクバは地元の報道機関で働き始め、「デモや爆撃の様子を撮影」するようになった。
ムハンマド・シュバット(31歳)は、ダマスカスで心理学を学んだ後、イスタンブールに本社を置く反体制系テレビ局Syria TVに就職した。最初はシリア国内で働き、後にトルコに派遣された。
サッカーが好きなムハンマドは、スペインに行ってみたいと常々思っていた。だが、「難民や移民として」スペインに来るとは、思ってもみなかった。
「旅行や留学で行くものだと思っていました。でも、これが人生です」と肩をすくめた。
『Baynana』 は、アラビア語とスペイン語で発信される。同メディアが目指すのは、「スペインに暮らす移民のいいところ」を見せることだと、妻と2人の幼い娘とともにマドリードにやってきたアイハム・アル・ガリーブ(32歳)は語った。
4人目は、ムサ・アル・ジャマート(39歳)だ。彼もまた、シリアでジャーナリストとして活動していた。『Baynana』 のウェブサイトを立ち上げ、現在はその運営を担う。
移民のサクセスストーリー
これまでのところ、同メディアでは主に移民のサクセスストーリーを伝えてきた。YouTuberのアシュラフ・カチャックもその一人だ。モロッコ系の彼は、イスラム恐怖症と闘っている。また、レバノン出身のマラク・ズンギも、スペインで難民向けにシェフとしての職業訓練を行うプロジェクトの発起人として『Baynana』 で紹介された。
サッカークラブのセビージャFCでストライカーを担うユセフ・エン・ネシリを取り上げたこともある。スペインの一流サッカーリーグでの彼の活躍は、中東や北アフリカに住む多くの若者の夢を形にしたようなものだ。
また『Baynana』 では、スペイン在住のアラビア語を話す人々への「お役立ち情報」の提供も目指している。特に、日々暮らす中で多くの困難にぶつかる移民がターゲットだ。
「在留証明をもらう方法に関する情報って、アラビア語ではあまりないんです」とガリーブは一例を挙げてくれた。この問題は、難民申請が受理されるのを待つ彼ら自身が身をもって感じていることだ。
スペイン難民支援委員会(CEAR)によると、2011年以降にシリアからスペインに避難してきた人の数は2万人を超える。
「スペインに来てから2年ほど経ちますが、まだ国外に旅行できないので、家族に会えていません」とモハメド。彼の家族は、ヨルダンで難民として暮らしている。
最後に会ったのは、2014年だという。
スペインでの暮らしは「とても安全」だが、「移民や難民に対する人種差別」があるとガリーブは話す。例えばアパートを借りようとする時に、そうした差別に遭うのだと教えてくれた。
幅広い読者
『Baynana』 は、スペイン初の難民運営メディアだとうたっている。
ドイツにもすでに似たようなプロジェクトがある。「Amal, Berlin!(アラビア語で「希望、ベルリン!」の意味)」というデジタルマガジンでは、アフガニスタン、エジプト、イラン、シリア出身のジャーナリスト10名が記事を書いている。
スペインには、モロッコ人を中心として約100万人のアラビア語話者が住んでおり、同国内における『Baynana』 の想定読者は「とても幅広い」と、マドリード在住の編集者アンドレア・オレアは言う。彼女は、シリア人の記者が書いた記事をスペイン語に翻訳する役割も担う。
スペインに暮らすアラビア語話者の中には、「農場で働くためにやってきた」モロッコ人から大卒の難民まで、実にさまざまな人々が存在する。
『Baynana』 のスタッフが働く簡素なオフィスは、スペインのPor Causa基金の本拠と共同で使っているものだ。同基金は、移民の真実を追求するジャーナリズムを推進しており、『Baynana』 への後方支援を行っている。
だが一方で、このプロジェクトの資金繰りは今もまだ厳しく、スタッフがソーシャルメディアを通じたクラウドファンディングを行っている。
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