途上国に広がるデジタル通貨や先進国の新しい寄付のカタチ。世界で進む最新プロジェクトの中から、シンガポール、カナダ、アメリカ、スウェーデン、ケニアの取り組みを紹介。お金の使い方を通して、社会問題を解決するヒントがありました。

susGain/シンガポール

地球に優しい行動でポイントを稼ぐアプリ

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ダウンロードは無料。シンガポール全体で使用できる。

サステナブルな行動をポイント化するユニークな無料アプリケーションが〈サスゲイン〉。例えば、給水ステーションに立ち寄ってマイボトルに水を補給したり、着なくなった洋服をリサイクルショップに持っていったり、環境に配慮した食品や日用品を売る店で買い物をしたり……。登録しているショップやスペースには二次元コードが設置されていて、それを読み取ってポイントを獲得できる。

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店舗や給水ポイントはマップに表示。

これだけ聞くとポイント集めのゲームのようだが、ユニークなのは貯まったポイントを使うとき。ユーザーが提携企業の店舗やオンラインショップで買い物をして、ポイントをキャッシュバックとして利用すると、そのキャッシュバックと同額が、各ユーザーがアプリ内で選択した慈善団体に寄付されるのだ。サステナブルなひとつのアクションから生まれる、たくさんのメリット。提携店がマップ上にわかりやすく表示されるなど、日常に取り入れ、持続可能な活動にしていくための工夫も考えられている。
www.susgain.com

Plastic Bank®/カナダ

プラスチックごみの回収で稼げるデジタルトークン

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ハイチのプラスチックごみの回収の様子。これ以上、海洋プラスチックを増やさないよう、海に流れる前に拾われたペットボトル。© Plastic Bank

世界各地の沿岸地域に住む人々にプラスチックごみの回収をしてもらい、その対価としてデジタルトークンを払う。これは、カナダ・バンクーバーで生まれた会社〈プラスチック・バンク〉が生み出したプログラム。使うのはハイチやブラジル、インドネシア、フィリピン、エジプトといった国の人々だ。このデジタルトークンが使えるのは専用のマーケット。食料品や日用品、調理用の燃料が買えるだけでなく、学校の授業料や健康保険の支払いにも対応している。

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デジタルトークンはアプリに貯まっていく。© Plastic Bank

目的は、世界の海に漂う1.5億トンともいわれるプラスチックごみを少しでも減らすこと、それと同時に、ごみ拾いを仕事とする人々の生活を向上させること。集められたプラスチックごみは、タイプや色に分けられ、リサイクルに。再生された素材は「Social Plastic®」として企業に売られ、プロダクトやパッケージに生まれ変わる。海洋汚染と、貧困層の救済という2つの問題を同時に解決できるアイデアで、安全な取引のために仮想通貨にはIBMと提携して開発した独自のブロックチェーンを活用。インターネットやスマートフォンの普及によって、国境を軽々と越えて実施されている。
plasticbank.com

Bank of the West/アメリカ

気候変動のために誕生した、全米初の当座預金

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月額手数料や最低残高もなし。気軽に利用できるサービスも魅力。

サンフランシスコ本店を拠点に全米に530支店以上を構える〈バンク・オブ・ザ・ウエスト〉は、環境保護活動を支援するグローバル組織〈1%フォー・ザ・プラネット〉とタッグを組み、気候変動に特化した全米唯一の当座預金口座を開設した。多くのメガバンクの預金が化石燃料系企業などの投資へと使われる中、この口座の収益の1%は環境問題に取り組む団体にのみ寄付される。

さらに、利用者が気候変動問題に意識的に取り組める仕掛けがあるのも特徴。例えば、上のデビットカードで購入したすべての商品のCO₂排出量と環境へのインパクトを専用アプリから確認することができるのだ。これらの数値を知ることで、利用者はより環境にいい消費行動を自ずと選択していくことができる。さらにカードには、100%生分解性でコンポスト可能なプラスチックを使用。消費以前に、口座を開くことがすでに持続可能な地球への投資につながるこの取り組みは、大手銀行業界に一石を投じている。

www.bankofthewest.com

The Impact Receipt/スウェーデン

一枚の洋服にかかる“真のコスト”を明記したレシート

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「様々なエネルギーが使われている」と漠然と伝えるのではなく、具体的な数値で示すことに大きな意義がある。©ASKET

世の中に浸透しつつある「カーボンフットプリント」という言葉。ひとつの商品やサービスが生まれるときに出るCO₂の排出量のことで、例えば洋服なら、原料となる素材の生産に始まり、それを仕立てたり、製造工場からショップへ輸送するまでのすべてを合わせたCO₂の排出量となる。

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“買う責任”を意識させられるプロジェクト。©ASKET

スウェーデンのメンズウェアブランド〈ASKET〉が試みたのは、そのCO₂の排出量、さらには水とエネルギーの消費量をレシートに明記する〈ザ・インパクト・レシート〉というプロジェクト。購入者は自分が買った洋服の価格だけでなく、この一枚にかかる環境負担を知ることとなる。

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©ASKET

今回、対象となったのは、Tシャツ、オックスフォードシャツ、チノパンツ、メリノニットウェアの4種。このことからも数値の表記がいかに難しいのかが分かるが、〈ASKET〉では2021年夏までに全商品に対象を広げる予定だという。製造時にかかるすべてのデータを消費者に提示する動きが広まることが期待される。
www.asket.com/transparency/impact

Sarafu-Credit/ケニア

経済の循環をつくる、透明性のあるデジタル地域通貨

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通貨が使える店には「Sarafu-Credit」の看板が。

始まりは、2010年にアメリカ人のウィル・ラディックによってケニアに導入された〈エコ・ペサ〉という名の補完通貨(地域通貨)。それを機に、様々な地域通貨が誕生し、2016年に〈サラフ・クレジット〉という名の通貨に統括された。

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なぜ、ケニアでこれほど地域通貨が広がったのかといえば、多くの人々が貧困生活を強いられ、国が発行する通貨ケニア・シリングが手元にないから。店に食べ物や日用品があっても買うことができず、病院や学校が存在していても利用することができない。つまりそれは、商売や経済が回らないことでもあり、悪循環が生まれている。

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現在、〈サラフ・クレジット〉は100%ブロックチェーンによる暗号通貨となった。ユーザー同士で通貨のやり取りが生まれる他、貧困層には赤十字などからダイレクトに支援が行われる。デジタル通貨なので使い道を正確に把握できるのもメリット。

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コロナ禍では収入が減った多くの人々が〈サラフ・クレジット〉に登録。ケニアの赤十字が支援し、デジタルの地域通貨によって生活を支えた。

商店などが稼いだ〈サラフ・クレジット〉はケニアの通貨、ケニア・シリングとも交換可能。1サラフが1ケニア・シリングになる。大切なのは持続可能な経済の循環をつくること。そのためのきっかけをデジタルの地域通貨が担っている。
www.grassrootseconomics.org

 

●情報は、FRaU SDGs MOOK Money発売時点のものです。
Coordination:Yumiko Nakanishi Text:Yuka Uchida, Sakiko Setaka Edit:Yuka Uchida