「SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標 )」とは、持続可能な社会の実現を目指すため、国連が採択した2030年までに達成すべき17の目標のことだ。同じく国連からは、ESGという言葉も発信されている。どちらも環境や社会などへの配慮が関係しているが、具体的にはどのような違いがあるのだろうか。
この記事では、SDGsとESGの違いについて解説する。
SDGsとESGの違い
ESGの概要と、SDGsとの具体的な違いについて解説しよう。
ESGとは
環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの頭文字をとってESGと呼ばれており、それぞれの要素を考慮した投資のことを意味する。
従来の株式市場では、財務情報を重視した考え方が主流だったが、超長期的な運用を行っている機関投資家から、企業経営のサステナビリティを評価する指標として注目されるようになった。
そして、地球環境や気候の変動に対する配慮、新たな創出活動、社会問題への対策など、企業が取り組んでいる活動に対しても評価の対象とする考え方が徐々に普及したのである。
2015年には、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が国連責任投資原則(PRI)に署名したことがきっかけとなり、国内でもこの投資の考え方が広がった。日 本国内において、2018年時点では年金、保険等の機関投資家の63機関が署名している。
PRIとは、2006年に提唱されたESGを考慮して行う投資を原則としたもので、それに賛同した機関が署名をしているのだ。
PRIが提唱する6つの原則
1.投資分析と意思決定のプロセスにESGを組み込む
2.所有方針と所有監修の視点にESGを用いる
3.投資対象の企業に、ESG情報の開示を求める
4.この原則が広まるような働きかけを実施する
5.本原則による効果を高めるよう協働する
6.本原則に関しての活動・進捗状況を報告する
事務局はイギリスにあり、世界では1965の機関が署名し約70兆ドルの資産運用規模を誇っている(2018年5月時点)。
SDGsとの違い
どちらも国連から生まれた言葉で、環境への配慮や社会規範の強化をするといった性質が似ているため、同じような意味合いとして捉えている人も多いだろう。
しかし両者に共通点はあるものの、根本的な目的には大きな違いがある。
ESGはあくまで投資をするときの企業の選び方であり、投資をする側としては長期的な資産運用のための考え、企業側としては投資家に評価してもらえるための取り組みを推進することになるのだ。
企業が選ばれるために実施する活動はSDGsに沿ったものとなり、その活動を支援する投資は結果的にSDGsの達成にもつながる。
この関係性があるため、SDGsとESGは、それぞれの違いがあいまいになることがあるようだ。
相違点をはっきりさせるためには、SDGsで掲げられている目標を知ることが重要になるだろう。
ESGの根本には投資というキーワードがあるのに対し、SDGsは投資や資産など限定した考え方ではなく、世界が共通に取り組むべき目標を指しているのだ。
持続可能な社会を実現するためには、世界規模で取り組むべき課題が多くあり、国連サミットで17の目標が採択された。
貧困や飢餓、教育、福祉、エネルギーや経済、人権や環境問題などに対して全世界が目指すべき目標がSDGsなのである。
国連・政府、企業や市民団体、個人といった様々な立場から目指す開発目標であり、ESGはこのSDGsに取り組んでいる企業を評価するための原則だともいえる。
ESG投資の状況
ここからは、実際に行われているESG投資の状況について紹介しよう。
ESG投資市場
PRIが提唱された後から、徐々にESG投資市場は世界的に拡大していき、特に2016年から2018年にかけての増加率が大きい。
ESG市場の拡大(2016~2018年)
ESG投資の手法別の成長(2016~2018年)
投資の手法としてもさまざまな考え方が用いられているが、その中でも投資先から個別企業を除外する方法を選択する投資の割合が多い。
最も投資額が大きいのは「ネガティブスクリーニング」で、 特定の業種・企業などを選別して投資先から除外する手法だ。
次いで「ESGインテグレーション」、こちらは財務だけではなくESGの要素を含めて長期的目線で分析する戦略である。
そして「企業エンゲージメント」と続くが、これは株主がESG課題について企業に対して積極的に働きかける方法だ。
全体の投資額としてはまだ少ないが、成長率が高まっている手法もあるので紹介しよう。
最も大きな変化を見せたのは「サステナビリティ・テーマ投資」で、なんと3.68倍もの成長をしている。手法としては、クリーンエネルギーや持続可能な農業などの、サステナビリティを中心にしている企業を選ぶ方法だ。
次に大きな成長があったのは「ポジティブスクリーニング」で2.25倍である。こちらはESG評価の高さを基準にして投資先を決める手法だ。
また、社会問題や環境問題の解決を目指している企業に投資する「インパクト投資」も1.79倍の成長を見せた。
これらの増加率の背景には、SDGsの認識や関心の高まりが関与していると考えられる。
企業側としても、サステナビリティな活動を多く取り入れることで、ESG投資の対象となることができるため、SDGs達成への取り組みが加速することになるだろう。
もちろん、日本でもESG市場は拡大しており、投資額は50兆円から220兆円へ増え約4.4倍の成長をしているのだ。
しかし、これでも海外と比べると低い水準のため、より一層の認識や情報の拡散が求められる。
ESG投資の意義
SDGsとも深い関連のあるESG投資は、企業に対してだけではなく、世界にとっても非常に価値のある活動だ。
「ESGに考慮した社会活動」を進めている企業に投資することで、結果的に世界全体の持続可能性を高めることができる。
当然ながらビジネスチャンスとしてとらえることもでき、企業側は投資家へアピールできる機会にもなるだろう。ESG情報を開示する企業が増えたことで、より企業全体の持続可能性に対する意識も向上しているのだ。
この投資をする人が増えるほどに、SDGs達成へ向けた取り組みを進める企業は高く評価され、より意識も高まるという好循環が生まれる。
投資家にとっては、将来性のある投資が行えて、長期的な資産形成としてのメリットは大きいだろう。
企業の環境・社会・ガバナンスに考慮した取り組み
日本では2015年にPRIに署名したことで、徐々にESGを意識した企業が増えてきており、分野に応じてさまざまな取り組みが進められている。
今後の経済や世界を支えるためには、環境・社会・ガバナンスへの配慮は必要不可欠である。
協和キリンのCSV経営
協和キリングループの経営理念は、全世界の健康と豊かさに貢献することを目的としており、新しい価値を創造することでその実現を目指している。
新たな価値には「社会的価値の創造」と「経済的価値の創造」の両立が重要と考え、企業価値向上を実現するCSV経営を実践し、その重点目標をSDGsゴールと紐づけているのだ。
実際の課題としては、コンプライアンス推進などの組織統治、人権の尊重、温暖化防止などの環境配慮などに対して、取り組みを実施している。
また、協和キリンは具体的なESG指標を毎年データとしてまとめ、その一覧をESGデータ集として公開してい る。
環境面に対しては、CO₂排出量、再生可能エネルギー発電量、廃棄物生産量などを事業ごとにまとめている。
社会面は、従業員やコミュニティにまつわる各種データが確認できる 。
ガバナンスでは、取締役員の構成内訳、取締役報酬額などの上層部の情報が公開されている 。詳細については実際のデータをご覧いただきたい。
まとめ
今回はSDGsとESGの違いや関係性について解説した。ESGは投資原則ではあるものの、企業側はSDGsで重要な環境・社会・ガバナンスを考慮した取り組みが必要である。
そして、適切な活動は投資家から高く評価されることになり、投資を受けることでより多くの課題への取り組みが実施できる。
少しずつ広がりを見せるESG投資だが、それでも認知度や実践率はまだまだ低い。SDGsを達成するためにも、早急なESG投資の拡大が求められている。