メキシコの子どもたちがレプリカのライフルを手に、武装した自警団員と並んで行進する。他に頼るすべがなく、自分たちで麻薬密売人から村を守るしかないという。

 

暴力が横行するゲレロ州アヤウアルテンパでは、過去に殺害や誘拐が繰り返されてきた。そうした事実にもかかわらず、政府当局は自分たちを見殺しにしていると住民は訴える。

住民が非難の目を向けているのは、ロス・アルディジョスと呼ばれる地元の犯罪組織だ。豆やトウモロコシの畑が広がるこの村の一帯は、アヘンの主要な産地にあたり、この犯罪組織が乗っ取りをたくらんでいるのだという。

2019年以降、村では少なくとも9人が殺されている。しかし、当局に助けを求めてもまったく相手にされないと住民は嘆く。

「役人が村に来て、助けてくれると約束してから15カ月がたちます。まだ何の支援もありません」と自警団のリーダー、ベルナルディーノ・サンチェスは言う。

チャヨが村の自警団に加わったのは、15歳のときだった。

家族がロス・アルディジョスに誘拐されたんだ。武器を持たずに出歩くとつかまるよ」

そう話すチャヨは今17歳。肩にはライフルをつり下げている。

「学校に行くとさらわれるから、もう勉強もできない」

助けを求めて

政府が麻薬カルテルとの闘いに軍を派遣した2006年以降、メキシコ全土で30万人以上の人々が、流血の惨事に巻き込まれて殺された。

メキシコ南部の太平洋岸にあるゲレロ州は、アヘンや大麻などの取引をめぐり犯罪組織の縄張り争いが続く、国内で最も治安が悪い地域の一つだ。

昨年メキシコで発生した殺人事件は3万4552件。そのうち1434件がゲレロ州で起きている。

同州の沿岸部にはアカプルコという有名なリゾート地がある。しかし、山岳地帯は国内でも特に貧しい地域で、住民の約3分の2が貧困に苦しんでいる。

犯罪組織がらみの暴力から身を守るため、1990年代以降、ゲレロ州では自警団が急増した。近年では、隣のミチョアカン州でも増えている。

アヤウアルテンパでは最近、6歳から12歳まで約30人の子どもたちに、村の運動施設で戦闘訓練が行われた。訓練が終わると子どもたちはレプリカのライフルや木の棒を握りしめ、サンチェスの後について村の中を行進した。

「夫を亡くした仲間に万歳! 親を亡くした子どもに万歳! 追放された仲間に万歳! 命を落としたわれらが兄弟に万歳!」 小型トラックに乗ったサンチェスが叫ぶ。

その後ろを自警団の大人たちが1列に並んで歩き、報道陣の前でライフルや拳銃を振りかざした。

同じようなデモは昨年もあった。アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領の関心を引くのが目的だったが、左派である大統領は「恥さらし」と切り捨てた。

村人はこの行進を通して、暴力の犠牲者を救うこと、そして教育への支援を求めることを訴えているのだと言う。

「大統領には、ここへ来て、その目で見てほしい」とサンチェスは語った。

どうすることもできない

ロペス・オブラドール大統領は、人口1億2600万人のこの国に暴力と貧困が広がったのは、歴代政権で汚職がはびこったせいだと批判している。この問題の解決に向けて社会事業に投資すると宣言し、2020年には140億ドル超をつぎ込んだ。

サンチェスは、子どもを巻き込んだデモが当局の気を引くための手段であることを認めている。それでも、子どもたちの訓練は本格的なものだし、犯罪組織から身を守るために必要なのだと主張する。

13歳のルイスは今、村のパトロールと両親の畑仕事の手伝いをしている。学校へ行くのはあきらめた。

「父と母がもう勉強しなくていいって言うんです。やつら(犯罪組織)につかまえられるから。どうすることもできません」

自警団は、政府が彼らの要請に応じてくれるのを待つあいだも、子どもの勧誘を続けている。そんな中、ルイスは「うまく撃つ」練習に余念がない。

他の子どもたちも、この先何が起きても大丈夫なように覚悟を決めている。

「大切な人のため、家族のために、必要なら命を捧げてもかまいません」 チャヨはそう語った。

 

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