国際的目標のSDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)には17の目標が掲げられている。そのうち4番目にあたるのが、質の高い教育に関するものだ。SDGsの4番目の目標とは具体的にどのような目標か、概要と企業の取り組み事例、個人ができることに分けて紹介していく。

SDGs4「質の高い教育をみんなに」とは?

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SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)の17の目標のひとつ、4番目の目標は「質の高い教育をみんなに」という教育をテーマにした目標だ。SDGs4達成のための具体的な目標と誕生の背景をまずは見ていこう。

すべての人に質の高い教育を提供する

SDGs4「質の高い教育をみんなに」を達成するために、以下の細かな目標が設定されている。

・すべての子どもが小学校と中学校を卒業できるよう質の高い教育を無料で受けられるようにする

・すべての子どもが幼稚園や保育園で就学前の準備ができるようにする

・すべての人が無理な負担なく専門教育や大学含む高等教育を受けられるようにする

・仕事に関する技術や能力を備えた人を増やす

・教育に関する男女差別をなくし、あらゆる段階の教育を受けられるようにする

・すべての人が読み書きや計算をできるようにする

・すべての人が持続可能な社会の実現に向けて知識やスキルをつけられるようにする

さらに、上記の目標達成を実現する方法として、次のふたつの方法も示されている。

・子ども、障害、男女差などを考慮した学校施設を作ったり直したりして、すべての人が安全で取り残されない学習環境を届ける

・2030年までに開発途上国などで、教師の研修のための国際協力などを行うことで知識や経験のある教師を増加させる

いずれも2030年に向けての目標だ。要約すると男女問わずすべての子どもが質の高い教育を受けられるようにするだけでなく、大人も十分に知識とスキルを身につけられるようにするといった内容になっている。

質の高い教育を世界で拡充するには、国際協力が欠かせない。目標達成のための、産業、科学技術人材の育成、社会経済開発の基盤づくりのための教育協力、国際的・地域的教育協力ネットワークの構築と拡大が重要な課題となる。

目標4が生まれた背景

SDGsの目標4がなぜ生まれたのか、それは世界ではまだまだ十分な教育が子どもたちに行き届いていないからである。

約半数の子どもたちが就学前教育を受けられていない

2019年のユニセフ(国連児童基金)の報告書によると、世界の就学前教育の対象となる年齢、つまり幼稚園などに通う年齢の子どもの約半数の1億7,500万人以上が就学前教育を受けられていないという。特に、低所得国においては、5人に1人しか就学前教育を受けていないという深刻な結果になった。

就学前教育を受けられないことの問題は、子どもの教育格差にある。ユニセフは、同報告書において、少なくとも1年の就学前教育を受けた子どもは、学校で留年または中退することが減り、大人になったとき社会経済に貢献できると発表した。

実際に、ネパールにおいては、就学前教育を受けた子どもと受けていない子どもとの間で、初期の読み書きや算数スキルの習得に17倍もの差が生じているという。このような子どもの教育格差に対応するために、目標4が持続可能な開発目標のひとつとして設定された。

出典:「就学前教育 子ども1億7,500万人が受けられず 教育のスタートで大きな格差 ユニセフ、報告書発表」(ユニセフ)

多くの子どもたちが教育の機会から取り残されている世界の教育については、就学前教育だけでなく、小中高における教育においても課題が多い。世界には、小学校、中学校、高校に通えない子どもたちも依然として多いためである。

2018年時点においては、小学生にあたる子どものうち約5,900万人が小学校に通えていないことがわかった。これは、6歳から11歳の子どもたちの12人に1人にあたる数である。特に、半数以上がサハラ以南のアフリカ地域の子どもたちであった。

中学校においては、2018年時点で約6,200万人が学校に通えていないという数値が出ている。これは、小学校よりもさらに多い、6人に1人の割合だ。

さらに、高等学校になると1億3,800万人、高校生にあたる学齢の子どものうち3人に1人が学校に通えていない。目標4は、このように子どもたちが教育の機会から取り残されないようにするために設定されている。

出典:「ユニセフの主な活動分野|教育」(ユニセフ)

教育格差が生まれる5つの理由

なぜ世界には質の高い教育を受けられない人が多く存在するのだろうか。SDGs4が必要とされている背景として、教育格差が生じてしまう理由を5つ取り上げる。

学校・教師の不足

ひとつは、学校・教師の不足だ。

特に、開発途上国では学校が近くにない状況が多くみられる。遠い学校に通うために、危険な道を使ったり、片道何時間もかけて歩いたりしなければならないのは大きな負担だ。

さらに、学校はあってもトイレや手洗い場などの基本的な設備が不十分で適切な教育が受けられない、子どもに教育をする教師が足りないなどのケースも多い。

教師が不足しているのは、子どもに十分な教育ができるほどの知識がある大人が少なく、開発途上国では教師に給与が支払えないという現状があるためだ。

貧困

教材や授業料を払うだけのお金がなく学校に行けない子どももいる。さらに問題なのは、お金がないために、子どもが働き手になってしまっていることだ。

水道や井戸のない環境では、飲み水を確保するのも難しい。遠くまで水くみに行くなど日々の生活に精一杯で、教育を受ける余裕のない子どももいる。

家族の世話

両親が働いており、幼稚園や保育園のような子どもを預かってくれる施設がない環境で過ごす子どもたちは、幼い兄弟や姉妹の世話や家事を任されてしまう。

一日中家庭で過ごさなければならないため、学校に行きたくてもいけない状況になってしまうのだ。

女性教育への無理解

女性の教育への無理解も教育格差を生んでいる。女性に教育は不要と考え、家事や労働をさせるといったケースだ。また、自らが教育を受けていないことを理由に、学校に行かせない親もいる。

地域によっては、男性を優遇し、優先的に学校へ通わせるなどの風潮が残っていることもあるようだ。

児童婚

18歳未満で結婚や出産を経験する児童婚も、教育の機会を奪う大きな問題だ。

児童婚はその国や地域の慣習によるものが多く、親などから結婚を強制されているケースもある。結婚後、家庭のために就業を強いられ、学校に通えない子どももいる。

病気

開発途上国など、貧しい地域では衛生環境が悪く栄養不足に陥りやすいことから、子どもが病気にかかりやすい状況がある。

病気になっても、近くに病院がなかったり、医療サービスが充実していなかったりすると、必要な治療を受けられない。病気を理由に学校に通えない子どももいるのだ。

SDGs4の達成に取り組む自治体の事例

SDGs4達成のために、日本の各自治体もさまざまな取り組みを実施している。ここでは、山口県宇部市と京都府の事例を見ていこう。

山口県宇部市の取り組み

山口県宇部市は、『魅力・活力・「人財」にあふれた「共存同栄・協同一致」のまち』を2030年のまちのあるべき姿として掲げている。そのひとつとして「生きる力を育み、子どもの未来が輝くまち」の実現を目指している。これを実現するために、子育てしやすい環境の構築をはじめ、ICT教育、英語教育、環境教育など特色のある教育を実践してきた。

さらに、2023年の目標値として、次のような目標を掲げている。

・課題解決に向け主体的に取り組もうとする小学生や中学生の割合を全国平均+4%にする

・中学校卒業段階で英検3級以上の英語力を身につけた生徒の割合を51.0%に向上させる

・環境教育プログラム実施校を16校に増やす

そのほかにも、社会に馴染めていない若者が、社会的・職業的に自立できるような取り組みを実践している。また、教育・学習機会の提供にあわせて、世界各国の多様な文化への理解を図る取り組みも行っていく。

出典:「宇部市 SDGs未来都市計画」(宇部市)

京都府の取り組み

京都府では、平成3年より独自に学力調査を実施してきた。これまでは紙ベースであったが、次世代型学習に対応するため、CBT(コンピューター上で実施する試験)化を進めている。

さらに、生涯現役活躍人材育成支援プロジェクトの一環として、教育情報の一元化を進めてきた。教育情報に関する発信にも力を入れている。

出典:「京都府におけるSDGsの推進」(京都府)

SDGs4の達成に取り組む企業事例

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SDGs目標4は、質の高い教育をすべての子どもが受けられるように、また、すべての人が読み書きや持続可能な社会に必要な知識を得られるようにする目標だと説明してきた。

SDGs目標4の達成に向けた活動は国主体だけでなく、企業主体の取り組みもある。

ここでは、SDGs4について理解を深めるためにも、SDGs4達成に向けた企業の取り組みをいくつか紹介していく。

パナソニックの取り組み

南アジアの農村部は電力が十分に供給されておらず、地域によっては、教育についても課題があげられている。

そこで、パナソニック株式会社が取り組んでいるのが、太陽光によって夜も灯りをともせるソーラーランタンの寄贈だ。

まず、ソーラーランタンの寄贈が行われたのが、カンボジアの農村部である。カンボジアは、識字率の低さが課題として存在し、それが農村地域の経済成長の妨げになってきた。パナソニック株式会社は、カンボジアで活動するNPO/NGOなど15の団体にソーラーランタンを寄贈した。

ソーラーランタンが贈られた地域では、夜の識字教室が開かれるようになり、識字率向上に貢献している。

ほかにも、パナソニック株式会社はミャンマーのNPO法人にソーラーランタンを寄贈する取り組みを実施した。ミャンマーには公立学校のほか、貧しい家庭の子どもたちでも教育を受けられる寺子屋がある。

ソーラーランタンを使って子どもたちが夜も教育を受けられるように。そして、ソーラーランタンのレンタルが寺子屋運営の資金源になるように寄贈された。同社が寄贈した、ソーラーランタンの活用は途上国の教育にプラスの影響を与えている。

アシックスジャパンの取り組み

現代の子どもたちが、さまざまな角度から学びや運動に対する意欲や関心が持てるように、アシックスジャパン株式会社は放課後NPOアフタースクールと共同で五感に働きかける体験型コンテンツを開発した。
※現在はNPO法人との取り組みは終了している。

アシックスジャパンが提供するのは、「カラダかるた」,「エコボッチャ」のふたつの体験型プログラムである。

「カラダかるた」は競技のピクトグラムを”かるた”にしたもので、ピクトグラムに合わせて体を動かし、さまざまな競技について理解を深めるコンテンツだ。

一方、「エコボッチャ」は、衣料リサイクルに注目した取り組みである。廃棄衣料で作られたフェルトで子どもたちがボールを手作りし、パラスポーツの「ボッチャ」を楽しむというプログラムだ。

体験プログラムをとおして、子どもたちが自ら考え、行動する力を養う。

協和キリンの取り組み

協和キリン株式会社も、コミュニティ参画と発展、研究活動の支援、のふたつの視点から、SDGs目標4の達成に向けた取り組みを行っている。

コミュニティ発展と次世代育成のため、協和キリン株式会社は、2000年からバイオテクノロジーと健康をテーマとした理科実験教室「バイオアドベンチャー」を開催している。プログラムは大きく「微生物編」「免疫編」「遺伝子編」「薬作り編」に分かれており、社内公募のスタッフで運営を行っている。

また、同社では、同社の卓球部やパラスポーツをとおした地域コミュニティとの交流にも力を入れてきた。社会貢献が評価されて、平成27年から4年連続で「東京都スポーツ推進企業」に選定されている。

このほかにも、地域コミュニティと共同し、地域住民との絆を深める活動も実施。地域の人を対象にした「健康」がテーマの講演会を2005年より行っている。

そのほか、協和キリンのSDGs達成に向けた取り組みについてはこちら

「質の高い教育をみんなに」の達成に向けて私たちにできること

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SDGsの目標4とは何か、企業はどのような取り組みを行っているか紹介してきた。SDGsの達成に向けて、私たち個人ができることはあるのだろうか。最後に、個人が意識したい行動を取り上げる。

地域コミュニティに参加する

教育に関連して、地方自治体などではさまざまな取り組みが行われている。たとえば、茨城県つくば市の「つくばこどもクエスチョンオンライン」や石川県小松市の「未来をひらく子どもへの学びのエール」だ。

「つくばこどもクエスチョンオンライン」は市内研究者などの専門家が子どもの自由研究についてオンラインで質問に回答する取り組みである。

「未来をひらく子どもへの学びのエール」は、子どもの教材費や食育について給付を行い、子どもたちの日々の成果を発揮する機会を提供する取り組みだ。

ほかにも、地方自治体では、さまざまな特色のある質の高い教育を実現するための取り組みが行われている。まずは、このような取り組みを知って、地域コミュニティに参加することが第一歩だ。

開発途上国へ募金・寄付をする

世界には、教育を十分に受けられない子どもたちが多い。

途上国の子どもたちが教育を受けられる機会を得られるように、国際的な教育支援活動を行っている団体に、募金や寄付をするのもSDGs4達成に向けた重要な取り組みだ。

現状を知る

SDGs4では、すべての人が持続可能な社会に向けて知識やスキルを得ることを目標のひとつとしている。持続可能な社会について理解を深めること、そして教育の問題を意識するために、世界や日本の教育の現状を知ることが重要だ。

まとめ

SDGsの目標4でゴールに設定されている質の高い教育は、途上国だけの問題ではない。SDGs4達成のためには、途上国の教育の現状を知るだけでなく、国内にも目を向け、地域コミュニティや企業の取り組みを知ることも重要だ。