社会的企業GiftedMomの共同創業者で医長も務めるアグボール・アシュは、最近開催されたワークショップの昼食時に、私にスマートフォンのアイコンを見せてくれた。そこには妊婦が描かれた小さなアイコン。「このアプリです。ここをクリックすると、このホームページに飛びます。いろいろなオプションがあります。妊婦なら、妊娠段階に応じて助言が得られますし、新生児の母親なら、特別ケアについて読むことができます。チャット機能を使って我々医療チームの当番医と連絡をとったり、次回の予約の確認をしたりすることもできます」。私が当惑しているのに気付いて、アシュはこう付け加えた。「どれほどの女性が医者の予約をしていることを忘れてしまうのかを知ったら驚くことでしょう。女性には考えなくてはならないことが、ほかにも山ほどあるんですよ」
人々の生活を改善するためには、シンプルな解決策が最も効果的だとアシュは考えている。彼はカメルーンのヤウンデで医学部を卒業した後、安定した職を求め、政府に勤務することとなった。「医療の分野には、スケールの大きな、取り組むべき解決策がある」と信じていた若手医師アシュは、やがて何かが物足りないことに気付く。「私は世の中の役に立ちたいのに、毎日病院で人々が病気になるのを待っていただけでは、できることは限られていると思ったのです」とアシュは語った。
2015年のはじめに、アシュは医療アクセス改善に関する自身の考えを職場の先輩たちに伝え始めました。そのときに先輩たちから受けた彼への励ましが、彼を後押しするきっかけとなった。
同年10月に、後にGiftedMomの共同創業者となるアラン・エンテフを紹介されたアシュは、公衆衛生省をはじめとする様々な機関と関係を築き始めた。彼の給料は月80ドルほどのため、家計のやりくりに友人を頼ることもあった。多くの同僚や家族からは、彼の夢が近視眼的で、実現性がないように映っていた。「両親は、私に安定を求めていました。元のように、政府で働き続けるように言われたのです。でも私は戻ることを拒んだのです。私の心の奥底にある『自分がしなければならないこと』を分かっていたので」
アシュはエンテフとともにモバイル技術を用いて妊産婦の健康改善を目指すGiftedMomを立ち上げた。彼が立ち上げたプラットフォームは、医療サービスが行き届かない地域の妊婦が、安全な妊娠期間を過ごせるよう支援するもので、当初はカメルーンの、今ではアフリカ各地にも広がりを見せており、同国の妊産婦死亡率と乳児死亡率が高い原因となっている医療アクセスや知識の不足の解決に役立っている。
GiftedMomは、モバイル機器の数が多く、その増加率も高いサハラ以南の国々の特徴を活用し、ユーザーの好みに合うように設定を変えられるSMS通知と音声による教育のプラットフォームを有し、妊婦や新生児の母親がこれに登録すると、なぜ定期検診は絶対必要なのかなど、健康に関する助言を受けることができるようになる。「登録料は一度限りで、1ドルもかかりません。利用者はこれを支払うと、以後は赤ちゃんの予防接種の時期を知らせる通知などのメッセージを無料で受信することができます」とアシュは言う。
GiftedMomのスマートフォンアプリは、オフラインとオンラインの両方でデータ収集ができるよう設計されており、コミュニティー・ワーカーや医療従事者が妊婦や新生児の母親を登録できる。また通話料無料の番号もあり、女性が自分でサービス登録をすることも可能。カメルーン人女性の35%を占めるとされる読み書きのできない人々が同サービスを利用できるよう、同国内で広く普及している4つの伝統的言語も利用可能な音声技術も備えている。
GiftedMomのサービスには、交通システムという別の側面もある。ユーザーは緊急事態に陥った際、GPSオート三輪に通知を送り、そのオート三輪がユーザーを医療機関まで送迎するというもの。農村地域であってもアプリが地図と場所の詳細を提供し、インターネットが利用できない状況でも基地局を基にした三角測量技術を利用している。なおこのオート三輪にはベッドと医療従事者用の座席も備えられている。
現在、サハラ以南のアフリカ諸国では携帯電話市場の成長が世界で最も速いことから、アシュたちチームが持っている大きな展望は、このサービスをアフリカ大陸一帯に広げるというもの。2016年後半におけるこの地域の携帯電話の新規利用者数は4億2000万人。これは普及率43%に相当し、2020年には利用者数が5億人を突破すると予想されている。携帯電話は今やアフリカ大陸において、革新的なデジタル・ソリューションやサービスを創造し、配信し、利用するうえで重要なプラットフォームになっている。
関連サイト:WhatsAppとSMSがアフリカの赤ちゃんの命を救う(英語サイト)
携帯電話産業は、この地域の社会的・経済的発展においてもますます重要な役割を果たすようになってきている。携帯電話の普及は、ネットワーク技師や機器販売業者などから構成される携帯電話のエコシステムは、経済成長と雇用拡大に大きく貢献していることに加え、「誰一人取り残さない社会」の実現への推進力となっている。アシュとエンテフのような多くのイノベーターや技術起業家は、人々の基本的ニーズに直接応えられるよう、アフリカで高度な携帯電話インフラの拡張とスマート機器の利用率が拡大していることをうまく活用している。モバイル技術を用いたサービスは地域全体で幸福度を高め、これは持続可能な開発目標(SDGs)を直接的に後押ししていることから、政府や開発パートナーの取り組みをも補完するといえる。
現在までに、GiftedMomはカメルーンの農村部および都市部に住む妊婦や母親12万人の手に届いている。これにより産前検診の受診率は平均で80%、予防接種率は90%増加している。それでも同社の志は高いままであり、2018年7月に国連開発計画に参加し、新たにアフリカの三カ国(ナイジェリア、コートジボワール、ケニア)へ活動を拡大すると約束した。
公衆衛生の問題と携帯電話の普及の2つの要素が、「誰一人も取り残さない」事業を展開するユニークな機会となっている。アフリカ各地で今後3年間に500万人の利用者に届けるという目標のもと、GiftedMomは、新たな市場を切り開こうとしている。そして私は、同社がSDGsの実現に向けて大いに貢献をすると確信している。
ナジラ・ヴァリはビジネス行動要請(BCtA)の知識・パートナーシップ部門のリーダーです
この記事は、The Guardianのナジラ・ヴァリが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comまでお願いいたします。