エネルギーも資源も、ぐるぐると巡ることで、新しい輝きが生まれる。それは家の中もきっと同じ。循環がある住まいには新鮮な空気が流れています。消費だけではない生活のヒントを、翻訳者・服部雄一郎さんの暮らしから学びました。

長く使える道具や自然に還る素材を選び、極力ごみを出さない。服部さんが家族で実践する暮らしには“選択の自由”がありました。

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プラスチックでできたスポンジは使用後に可燃ごみになるだけでなく、洗う時にマイクロプラスチックも生んでしまう。服部家ではヘチマなどで代用。

「意外としっかり洗えるでしょう?」

キッチンスポンジ代わりのヘチマを手に、楽しげに食器洗いをする服部雄一郎さん。

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採ったばかりの青菜をパスタに。

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畑は“自然の冷蔵庫”。すぐ食べれば保存の必要もない。

この日の昼食は青菜をたっぷり刻んだオイルパスタ。妻の麻子さんが、裏の畑で採れた葉野菜で手際よく作ってくれた。オリーブオイルが残ったプレートが、ぬるま湯とヘチマでみるみる綺麗になっていく。指を滑らせるとキュキュッと気持ちのよい音。くたくたになるまで使ったヘチマは畑のコンポストへ。

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週に一度、「ロータスグラノーラ」の屋号でカフェを開くキッチンスペース。

「野菜の皮なんかもザッと土に混ぜて、あとは放ったらかしです」。服部家のごみを極力出さない暮らしは、ルールに縛られたものではないようだ。服部さんの人柄のようにおおらかで、ストイックな空気は感じられない。

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コーヒーはステンレスフィルターでごみゼロに。

そもそも服部さんがごみに関心を持ったのは20年近く前のこと。当時住んでいた神奈川の葉山で町役場に勤めたことがきっかけだ。

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服部家のごみ箱。子育て中は絆創膏など、どうしても減らせないごみも多いそう。今はおよそ1ヵ月で5Lのごみ袋ひとつ分に。

「配属先がごみ処理を担当する部署だったんです。大学の専攻は翻訳論で、趣味は芸術鑑賞。だから、正直最初はごみかぁ……と思いました(笑)。でも働くうちに興味が出て、勉強がてら自宅でも分別を徹底してみたんです。同時にコンポストも始めたら、2~3週間たってもごみ箱がいっぱいにならない。ごみ出しがないと家事もラクだし、これはすごいぞ! と一気に楽しくなりました」

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麻子さんが道端で拾ったアルミの板。その錆や汚れが絵画に見えたので壁にかけているそう。循環する資源はときにアートにも!

面白いのはそこからの服部さんの歩み。カリフォルニアの大学院に留学して公共政策を学び、卒業後は廃棄物の問題に取り組むNGOスタッフとして南インドに滞在。麻子さんも一緒に世界を転々としながら、行政や団体としてできるごみ政策を考え続けた。でもある時、はたと思ったそうだ。個人が家の中でできることにも、すごく大きな可能性が広がっているのではないか? と。

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掃除は省エネな箒とちりとり。

「意識が変わったのは『ゼロ・ウェイスト・ホーム』を読んでから。初めて翻訳した本です。この本に、ごみは個人の意思でコントロールできる、と教えてもらいました。キッチンスポンジのない生活なんて最初は想像できないかもしれませんが、なくても大丈夫な自分になれるとしたら、なんだかワクワクしませんか? それは“スポンジなしでも生きられる自由”を感じられるから。ごみを減らそうとすることは、義務ではなく、ひとりひとりに許された選択の自由だと思うんです」

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蜜蝋ラップなら色や柄も楽しめる。

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家族ひとりひとりのマイ水筒。

麻子さんが台所で使う蜜蝋ラップも、家族全員分の水筒も、よくよく選んで買ったお気に入りだ。納得のいく竹製の歯ブラシを見つけた時は、特に嬉しかったと服部さん。

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アメリカGaia Guy社の歯ブラシ。環境に配慮した歯ブラシも毛はナイロンの場合が多いが、これは豚毛。歯磨き粉はココナッツオイルと重曹、ミントオイルで手作り。知覚過敏な長男の歯ブラシはソフトなプラスチック製。必要なものは無理をしないことも大切。

「使い捨てになるプラスチックを生活から少しずつ取り除いていくことは、暮らしを隅々まで自分色に染めることでもあります。それが環境のためにもなる。個人の力は小さいと思うかもしれないけれど、世の中の10%の人に変化が現れると、その変化は急速に広がるとも言われています。ごみゼロに挑戦する自由を感じつつ、できる範囲で続けていく。それが服部家の楽しいゼロ・ウェイストです」

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服部さんと妻の麻子さん。6年前に高知に移住した。

 

〈PROFILE〉
服部雄一郎(はっとり・ゆういちろう)

1976年生まれ。翻訳者。主な訳書に『ゼロ・ウェイスト・ホーム』がある。最新の訳書『ギフトエコノミー ~買わない暮らしのつくりかた』を近日刊行。ブログやSNSでも暮らし模様を発信する。

●情報は、FRaU2021年1月号発売時点のものです。
Photo:Kiyoko Eto Text & Edit:Yuka Uchida