インド政府が、使い捨てプラスチックをなくすための取り組みの一環として、インド国内にある7000の鉄道駅で「クルハド」という伝統的な素焼きカップでチャイ(お茶)を提供することを決めた。クルハドは、うわぐすりが塗られておらず、完全に生分解するので環境に優しく、同時に陶器職人の収入増加にもつながる。

著者:アムリット・ディロン(ニューデリー在住)

Source:The Guardian

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インドに昔からある素朴で小さなものが、大々的に復活しようとしている。国内に7,000あるすべての鉄道駅で、チャイの販売に「クルハド」と呼ばれる素焼きカップが使われるようになるようだ。

クルハドは、牧歌的な時代を思い出させる。うわぐすりが塗られておらず土の色そのままで、取っ手もついていない。完全な生分解性で、環境に優しい。そうした理由からインドのピューシュ・ゴヤル鉄道相は、国内の使い捨てプラスチックをなくすという政府の目標達成のための取り組みの一環として、プラスチックのカップをクルハドに置き換えると語っている。

「クルハドは、有害なプラスチックの使用を減らし環境を守る助けとなるだけでなく、何十万人もの陶器職人に仕事と収入をもたらします」とゴヤル鉄道相が発表で述べた。クルハドで飲むチャイの方がおいしかった記憶が彼にはあるという。

冬の駅ホームに立ち、湯気がのぼる熱いチャイの入ったクルハドを両手で包む――多くのインド人にはそんな思い出がある。そして誰もが口をそろえて、粘土がもたらす土の香りがおいしさを引き立てていると言う。

終わりのない大量消費と使い捨て文化の時代の中で、クルハドは自然素材、手工芸を基本とする暮らしの象徴でもある。

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クルハドを復活させる試みは、これが初めてではない。ゴヤルの前任者の1人で、田舎の農村出身で知られるラル・プラサド・ヤダブ元鉄道相も、16年前にクルハドを復活させようとした。しかし、政策がきちんと実施されることはなく、プラスチックのカップが主流の状況は変わらなかった。それでもヒンドゥー教の聖地バラナシなどにある一部の駅では、クルハドを見ることができる。

今回、列車の車内や駅のホームで売られるチャイには、例外なくクルハドが使われるようになる計画だ。クルハドは窯焼きで一度使ったら捨てられることが多く、もともと衛生的だ。昨今のコロナ禍では、それが特別なメリットになる。

インドには陶芸の豊かな伝統があり、どの村にも陶器職人がいる。多くのインド人がプラスチックやスチール、メラミンに頼るようになり陶器の需要は減っているが、水をためておく素焼きの水瓶はいまも村の暮らしのあちこちに見られる。

裕福な地域でも、保冷効果のある粘土でできた大きな水瓶が家の外によく置かれている。通りすがりの人が暑くて喉が渇いたときに飲めるようにという善意のしるしだ。

ヒンドゥー教の光の祭り「ディワリ」では、素焼きの小さなランプに火が灯される。また特別な日には今でも、刻んだピスタチオ入りの、銀箔が貼られたスイーツが、小さな素焼きの器でふるまわれる。

新型コロナが大流行する前は、毎日2,300万人がインドの列車を利用していた。つまり、天文学的な数のクルハドが要るということだ。政治家で手工芸の専門家でもあるジャヤ・ジャイトリーによると、クルハドを復活させれば200万人の陶器職人が収入を得られる可能性があるという。かつて鉄道にクルハドを呼び戻す試みに関わったことのある彼女は、鉄道ではまず、形と大きさをきっちりそろえようとするのをやめるべきだと話す。

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陶器職人のカンタ・ラムは、陶器への切り替えによって収入が増えることを期待している。写真:アムリット・ディロン

 

ジャイトリーによれば、1990年代初頭に同じような政策が失敗した理由はここにある。粘土は地域ごとに異なるし、陶芸は手仕事だ。だから、工業製品のように完全に同じカップは作れないのだ。

粘土は、川や用水路、湖などの水辺に近い主な産地の開発が進み、ますます不足している。陶器職人への供給を政府がしっかり調整すると約束することも、この計画の成功に欠かせないだろう、と彼女は付け足した。

国内に散らばる陶器職人をどうまとめるかも課題だ。「主要な鉄道駅の近くに、電気などの設備がある作業所を設ける必要があります。そこで仕事ができるようにするのです。地域の輸送手段を使って各駅にカップを運べば、さらに雇用が生まれるでしょう」とジャイトリーは言った。

中小零細企業省のカディー・村産業委員会はすでに、電動ろくろなど2万台の機器を10万人以上の陶器職人に配りはじめている。

「これらのろくろで、1日200万個のクルハドを生産できます。機械を使うことで生産量が少なくとも4~5倍は増えます。もっとたくさん作れますよ。陶器職人の平均収入は、月2,500ルピー(約3,500円)から1万ルピー(約1万4,000円)に上がるでしょう」と、同委員会のビナイ・クマル・サクセナ会長は語った。

デリーの住宅街ニューフレンズ・コロニーで、陶器職人のカンタ・ラムが人通りの多い道に自分が作った陶器をならべ、その隣に座って客を待っている。インド人が「ディヤ」と呼ばれるオイルランプで家の中を照らすディワリ祭は、いつも稼ぎ時だ。一日に何百個も簡単に売れる。でもコロナ禍のために祝祭の自粛を余儀なくされた今年は、苦戦している。いちばん売れるのは植木鉢だ。クルハドは1つ5ルピー(7円)で売っているが、買う人はあまりいない。

「最近はプラスチックの方が好まれているようです。大口の注文を受けられれば、もっと安心なんですが」と彼女はこぼしている。

 

この記事は、The Guardianのアムリット・ディロン(ニューデリー在住)が執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはすべてlegal@industrydive.comまでお願いいたします。