南アフリカのワイン産業は世界第9位のワイン生産量を誇るが、それを支えるワイン醸造家やワイン農家が、深刻な干ばつの被害に悩んでいる。しかも干ばつは今後も続きそうだ。しかし、関係者は干ばつに屈することなく、節水やブドウの品種の変更、栽培の工夫などの努力を続けている。現場の声を取材した。

著者:イシェイ・ゴヴェンダー-イプマ
Source: Saveur

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ワイン醸造家やブドウ農家は、深刻な水不足の中でも、懸命にワインを作り続けている。

南アフリカのワイナリー、ボスマン・ファミリー・ヴィンヤーズのブドウ栽培責任者コーレア・フーリーは、ケープタウンからおよそ70キロ離れたウェリントンにある同社の畑で、ブドウの木の状態を調べている。以前は生き生きとしていた緑の葉が、1月に収穫してからというもの元気がない。干ばつがもう3年も続いていて、木に負担がかかっているせいだという。今年になって、その影響が目に見える形で表れ始めた。「いつも気をつけて観察するのは『成長点』、つまり若枝の先につく新芽です。今年はまず、若枝がとても早い時期に伸びました。それが乾いてしおれたら、何かがおかしいというサインなのですが、それが現実になってしまいました」 ブドウの木は、それまでは丈夫に育っていたという。

「ボスマンの畑では、収穫量がこれまでに比べて3割ほど減りました。ブドウの実にはかなりシワが寄っていました。これは『oumens gesiggies(老人の顔)』と呼ばれる現象で、果汁が濃縮されるという面では良いのですが、ブドウには、力強さや新鮮さも必要です」と彼女は言う。農場の経営者や労働者は、水不足を心配しながら、強い日差しの中、何時間もヘトヘトになるまで枝を刈り込んだ。「一部のブドウはあきらめて、収穫を前倒しにしなければなりませんでした。もう自分の手に負えないと悟ったのは、このときです」

ケープタウンは、世界で最初に水不足に陥る可能性がある主要都市の一つとして、ここ数か月の新聞をにぎわせた。水不足は住民の生活の質を脅かし、伝統的に大量の水を必要とするサービス業やレストラン、農業、ワイン業界などで働く人々の生計にも影響を与えている。南アフリカのワイン産業を代表する非営利企業VinProによると、南アフリカのワイン産業は、世界第9位の生産量を誇るという。

ケープタウン市は、住民に対し、水の使用を必要最小限にするよう指示し、市が供給する水を1人1日50リットル以内に制限した。これにより、市が水道水の供給を止める日を意味する「デイ・ゼロ(Day Zero)」は、ひとまず先送りとなった。一部の住民や自治体、影響のあるさまざまな業界にこのような厳しい規制を一斉に課したことで、ケープタウン市民は、節水政策の世界的な「実験台」となった。フーリーをはじめ多くの人々によると、「デイ・ゼロ」がくれば、住民が与えられる水は、軍の監視下で1日25リットルに制限されるという。その調達から配給までの過程は、考えれば考えるほど、恐ろしい悪夢に思える。

 

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ブドウの木を調べるコーレア・フーリー。

写真提供:Peartree Photography

VinProが報告しているように、主要なダムの貯水率は、2017年の42パーセントから2018年は27パーセントまで減少しており、この先どうなるかは分からない。VinProのコンサルテーション・サービス・マネージャーを務めるフランソワ・フィルヨーンによると、すべてのブドウ畑からの収穫を集計すると、業界では、ワイン用ブドウの収穫量が、ここ10年あまりで最も少なくなると見込んでいるという。ケープタウン周辺の10地区582カ所のワイナリーに対しては、追加で水が供給されていたが、現在は打ち切られている。VinProは、水の消費を抑えるための灌漑、除草、害虫駆除など、収穫後の対策に関するアドバイスを、シーズン半ばにようやく発表した。「私たちは今、海図のない海を航海しているようなものです。これほどの干ばつは、もう何年も経験したことがありませんから」とフィルヨーンは言う。ケープタウンの北約200キロメートルにあるオリファンツ川沿いの地区は、干ばつの脅威の矢面に立たされた。クランウィリアム・ダムから割り当てられる水の量が、いつもの17パーセント以下だったからだ。

フーリーは、ボスマン・ファミリー・ヴィンヤーズに固有のニーズに対処するためには、計画を立てて柔軟に動くことが欠かせないと語る。「バーグ川からの水の供給網に頼っているハーモン農園では、黒ブドウの収穫前に川が干上がってしまいました」と彼女は言う。フーリーの場合は、シーズンの終わりになって干ばつの影響が表れた。一方、ステレンボッシュにある家族経営のワイナリー、デモーゲンゾンの代表、カール・ヴァン・デル・メルヴェは先手を打っていた。水上スキー愛好家である彼は、ダムの水位が急激に下がるのを目の当たりにしてきた。そして、この地域の水が以前より少ないのは「共通の認識」だと言う。5年前、デモーゲンゾンはこの問題への対策として、グルナッシュ・ブランやグルナッシュ・ノワール、シュナン・ブランなど、乾燥に強い品種のブドウを植えた。

 

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アンドレア・マリヌーとブドウの木。

写真提供:マリヌー&リーウ

オーガニックワインを生産するユステンバーグ・ワインズは、ワインの産地として知られる「パール地区」の南西部にある。ここでは、ブドウの半分を乾燥農業で育てている。オーナーでワイン醸造家でもあるティレル・マイバーグは、収穫の2カ月前に、灌漑用水は止められてしまったと話す。「幸い、若くて水が必要な木に、なんとか1回水をやることができました。収穫量は落ちましたが、2016年よりはましです」 マイバーグは、1980年代にこの農場で確立した伝統的な乾燥農業に、完全に戻そうと考えている。

アンドレア・マリヌーはワイン醸造家で、「スワートランド地区」のマリヌー&リーウ・ワインズの共同所有者でもある。このワイナリーは、ケープタウンの北東およそ100キロの場所に位置し、乾燥した気候と乾燥農業で知られている(マリヌー&リーウの自慢は、一度も水をやったことがない樹齢118年のブドウの木だ)。マリヌーにとって、干ばつは初めての経験ではない。「子どもの頃、カリフォルニアで何年も続いた大干ばつを経験しました。息子は今、その頃の私と同じくらいの年。水を節約しなければならない今の経験を、息子にも忘れずにいてほしいと思います」 排水管が凍らないように水を流しっぱなしにしておいたのは、遠い昔のことだと彼女は言う。

インタビューを受けた醸造家たちは、わずかな水も無駄にせず再利用していることを、熱心に説明してくれた。「洗車をしないので、車にはホコリが積もっています。パスタや野菜を茹でた水は冷まして、ペットや家畜に使います」とマリヌーは言う。フーリーは、自分のワイナリーには排水を再利用するシステムがあると語る。「なぜもっと早くこのシステムを設置しなかったのだろうと思います。水漏れを直したり、水の使用量を計測したり、打ち合わせをしたり――つまり、260人のスタッフを何時間もかけて訓練していたのですから」

 

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写真提供:DeMorgenzon

フーリーは、ユーカリや松の木など、ブドウ畑に侵入して水を奪ってしまう植物を監視し、根絶させるプロジェクトが進んでいることも話してくれた。マリヌーも、スワートランド地区では雑草管理がとても重要になっていると言う。「ブドウの木の根元を必死になって覆っています。こうすると雑草が育つのを押さえられるし、土の中に含まれる水分を保つことができます」

収穫量は落ちたものの、マリヌーは、2018年のブドウの品質に満足している。「ブドウの木は生命力があって、適応力もあります」と語る一方で、今後の水不足に備え、この地区の水供給インフラを全面的に見直す必要があるのは確かだと彼女は言う。VinProのセラー部門のマネージャー、クリスト・コンラディは、収穫量は世界的に減少していると強調する。「ヨーロッパでは、ここ45年ほどで最も少ない数字です。ということは、南アフリカのワイナリーにとっては、安定した輸出契約を結べるチャンスです。輸出業者は、より高い価格で、世界の輸入業者と交渉を進められるのです」

この地区では、冬の降水量を頼みにしているが、フーリーは、テクノロジーを取り入れれば未来はあると言う。例えば、彼女が導入を検討しているアプリ「FruitLook」もその1つだ。西ケープ州農業局が農業従事者に無料で提供しているもので、衛星を使って灌漑施設をモニターしたり、さまざまな測定値をトラッキングしたりできる。発想の転換も必要だ、とフーリーは言う。「今年の収穫のことは決して忘れません――私たちには、学ぶことが山ほどあると思い出させてくれたのですから」

 

この記事は、Saveurのイシェイ・ゴヴェンダー-イプマが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはすべてlegal@industrydive.comまでお願いいたします。