今、英国で、地球によい影響を与えながら、事業としても採算がとれる仕事である「グリーンジョブ」への注目が高まっている。政府からの支援も増えており、今や対象となる業界は、再生可能エネルギーだけでなく建設業、金融、IT、法律関連まで広がっている。関係者を取材し、グリーンジョブの今と未来を考えた。

著者:アンナ・ターンズ

Source: The Guardian

 

地球環境に対して直接的によい影響を及ぼす仕事といえば、再生可能エネルギー、電動車両、省エネ、自然保護に関するものとされてきた。だが今、低炭素型への転換を図る分野は広がっており、あらゆる仕事が「グリーン」化の可能性を秘めている。

新型コロナウイルスの感染拡大で職を失う人が増えている今、環境を軸にして、雇用のあり方を大きく変えるチャンスが生まれた。英国政府が1億6000万ポンド(約220億円)を投じる「グリーンな復興」に向けた投資計画では、洋上風力タービンの設置や港湾施設の整備のため、建設関連で新たに2000人の雇用を目指している。

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温室効果ガス排出実質ゼロへの移行にともない、英国における需要はどの分野でどの程度高まるか?

2030年までに、英国の低炭素・再生可能エネルギー分野では、69万4000人の環境関連の雇用、つまり「グリーンジョブ」が見込まれており、2050年には、118万人にまで増えるとされている。環境関連の市場には、大いに成長の余地がある。

英国の公共政策研究所の調査によると、2030年までに、省エネ関連で20万を超える雇用が生まれ、早くも2023年までに、洋上風力だけで7万の雇用が見込まれるという。また、再生可能エネルギー事業を展開する英国の企業Thrive Renewablesは、2035年までに陸上の再生可能エネルギーに関連して新たに4万5000人が雇用される可能性があると推定する。雇用の機会は、地域によって異なる。英国北西部では、風力発電のさらなる導入にともなう雇用が中心となる一方で、ロンドンのグリーンジョブは、大半が金融、IT、法律関連となるだろう。

なぜ脱炭素化が必要なのか?

オックスフォード大学環境変動研究所の経済学者ケイト・ラワースは、2050年よりもはるかに早い時期に脱炭素経済を実現しなければならないと考えている。資源を無駄にしないよう、今の経済を早急に再編するべきだというのがラワースの見解だ。そして、そのためには本格的なイノベーションが必要だという。「これからの経済は、再利用(reusing)、修理(repairing)、修繕(refurbishing)、改造(remaking)、別の用途での再利用(repurposing)をすることで回っていきます。そうした変革にともなって、創造的で意義のある新しい仕事が生まれるでしょう」

経済を作りかえる

2018年、英国政府は、自国の低炭素経済が2030年までに年間11%の成長を遂げる可能性があると予測した。経済全体の予測成長率をはるかに上回る数値だ。世界に目を向けると、新型コロナウイルスの影響に対する緊急の経済支援策として投入された額は、G20加盟国全体ですでに6兆ポンド(約830兆円)を超えている。実際、排出実質ゼロへの移行や低炭素分野への投資は、新型コロナウイルスからの復興を助けることにつながる。

「グリーンジョブは、環境目標を達成する力になるとともに、生計を立てる手段にもなります。こうした考え方は、新しいものではありませんが、今になって注目を集めています」 そう話すのは、カーディフ大学で政治学・国際関係学を教えるジェニファー・アランだ。彼女は、気候対策は「経済的な波及効果をもたらすもの(economic multiplier)」であると言う。グリーンジョブが生まれれば、生態系の危機を和らげることにもなるからだ。

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2020年6月、英国のボリス・ジョンソン首相は、公共施設や住宅の省エネ化を進め、大気中に排出される炭素を回収する技術への投資として、数十億ポンドを投じた。これを受けて、運輸や建設などの分野における排出削減のため、同国の産業界にも3億5000万ポンド(約480億円)が割り当てられることになる。

一方フランスは、新型コロナウイルスからの復興のため、総額1000億ユーロ(約12兆円)の景気刺激策を打ち出し、その3分の1を経済のグリーン化に充てる予定だ。他のEU主要国と比べて規模が大きいとはいえ、それでも変革に必要な水準には達していないという意見もある。ドイツは、1300億ユーロ(約16兆円)の復興予算を環境にやさしい産業を中心に投じるが、そのうちの少なくとも400億ユーロ(約5兆円)を、環境保全型のインフラの整備や環境技術の開発支援に充てる。

ウィンウィンの省エネ対応策

英国の省エネインフラ整備に取り組むEnergy Efficiency Infrastructure Groupの報告書は、国内に既にある住宅の脱炭素化によって、今後10年間で、年間10万人の雇用が創出されると示唆する。現在、英国の住宅所有者は、家屋の省エネ化を進める政府の新たな計画のもと、5000ポンド(約70万円)に相当するクーポンを利用して住宅を改修することができる。住宅の改修は、エネルギーの消費効率を高めるだけでなく、二重ガラスや断熱材、空気熱源ヒートポンプの設置に関わるグリーンジョブも生み出す。

つまり、住宅の改修は大規模なウィンウィン関係を生むということだ。「これは、単独のイノベーションではなく、業界全体の転換を意味します」 ケンブリッジ大学のサステナビリティ研究機関Cambridge Institute for Sustainability Leadership(CISL)で、政策ディレクターを務めるエリオット・ウィッティントンはそう説明する。

 

再生可能エネルギーが支える未来?

英国では、2035年までに、ガソリン車、ディーゼル車、ハイブリッド車の新車販売が禁止される。しかし、電気自動車(EV)の生産に舵を切る上で、依然としてコストがネックとなっており、大きな先行投資が必要になる。産業の発展に合わせて、労働者のスキルアップも不可欠だ。この動きを実現するには、働き手一人ひとりに対して、再度のトレーニングと資金援助が必要となる。

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ニック・ダニエルは、英国の人材紹介会社Acreでエネルギー・気候変動部門を統括している。彼のクライアントにとって、気候の非常事態は、今や取締役会レベルの優先課題だ。大半の雇用が凍結されてしまっている今にもかかわらず、サステナビリティ関連の業務を担う多くの新しい職が「業務上不可欠」だとみなされている。サステナビリティ分野で実績を持つ人材に投資しない組織は、「気候変動対策でおくれを取る」ことになるとダニエルは考えている。

未来はグリーンか?

グリーンな復興は、経済を後押しし、環境を守り、働く人々を活気づけることができる。環境にやさしく、サステナブルで、社会によい影響をもたらす企業や事業への資金提供を行っているCyan Finance社のポーラ・マクギネルは、持続可能なビジネスへの需要は急激に高まっていると語る。「グリーンジョブによって、回復する力、つまりレジリエンスが高まります。またそれにともなって、二度とないほど大きなビジネスチャンスが訪れます」と彼女は言う。

気候対策に取り組む慈善団体Possibleの活動家アレテア・ウォリントンは、次のように話している。クリーンエネルギーや、環境配慮型の運輸、熱効率の優れた住宅に対して、英国政府が熟慮を重ねた上で長期的な投資を行うことは、「今まさに落ち込んでいる英国経済にとって最良の薬」となるだろう、と。

グリーンジョブの最新の求人情報は、Guardian Jobsをチェックしてください。

 

この記事は、The Guardianのアンナ・ターンズが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはすべてlegal@industrydive.comまでお願いいたします。