グリーンランドと南極の氷床には、海面を65メートル上昇させるだけの凍結水が含まれている。これらの氷床が、国連の海面上昇に関するシナリオの最悪のケースをたどっていると、8月31日付けで研究者らが「ネイチャー・クライメート・チェンジ」に発表した。現在の気候変動モデルには欠陥があると強調している。
報告によれば、2007年から2017年にかけて融解や崩壊によって失われた氷床の量は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最も極端な予測とほぼ一致しており、このままいくと2つの氷床の融解だけで、2100年までに地球の海面が最大40センチメートル上昇するという。
そうなれば、世界中に計り知れない影響が及ぶだろう。高潮の破壊力が高まり、何億人もの人々が暮らす沿岸地域に、たびたび深刻な洪水が起こるようになる。
氷床の融解だけで40センチ上昇という最悪の予測は、中間的な予測の約3倍にあたる。IPCCが2014年に出した最新の主要な評価報告書の中間的シナリオでは、山岳氷河の融解や温暖化にともなう海水の膨張など、すべての要因を合わせた海面上昇を70センチと予測しているのだ。
氷床の崩壊が加速しているという現実と、その傾向を追跡するモデルとの間には、このように明らかな矛盾がある。にもかかわらず、IPCCが昨年発表した地球の雪氷圏に関する特別報告書では、グリーンランドに関するこれまでの世紀末予測に変更はなく、南極については温室効果ガスの排出が最も多いシナリオ下での予測が、わずかに上方修正されただけだった。
Forecast retreat of Greenland’s ice sheet
Laurence CHU, AFP/File
「最悪のシナリオを新たに考える必要があります。氷床はすでに、現状のシナリオどおりの速さで解けているのですから」。こう語るのは、英リーズ大学極地観測モデリングセンター研究員で、前述の調査論文の筆頭著者トーマス・スレーター氏だ。
「海面水位の予測は極めて重要です。政府が気候政策や緩和策、適応策を考える際、参考にしているからです」と彼は付け足した。
「将来の海面上昇を過小評価していると対策が不十分になり、海沿いの地域が無防備な状態に置かれる可能性があります」
IPCC予測の最悪のシナリオで氷床が消失すれば、それだけで今世紀半ばまでに世界中で約5,000万人が毎年、沿岸部の洪水に見舞われることになるだろうと伝える調査結果が、昨年発表されている。
– 崩れたバランス –
海面が全体で1メートル上昇するだけで、洪水に備える防潮堤などの護岸設備に年間700億ドル以上の支出が必要になるだろう。
今回「ネイチャー・クライメート・チェンジ」に発表された新たな分析では、国連の海面上昇予測のもとになっている気候モデルで、氷床が軽視されている可能性があることを指摘。その理由を説明するいくつかの要因を明らかにしている。
Night view of glaciers at Chiriguano bay in the South Shetland Islands, Antarctica on November 08, 2019
Johan ORDONEZ, AFP/File
氷床モデルは、地球全体の気温よりもはるかに速く上昇する北極と南極の気温に基づいており、徐々に進行する地球温暖化の長期的な影響を説明するのに向いている。
しかし、このモデルでは、気候変動に強く影響される気象パターンの短期的な変動を説明できていない。
「グリーンランドでは現在、失われる氷の大半が、暑い夏のあいだの表面融解によるものです。しかし、このプロセスはAR5のシミュレーションに反映されていません」。スレーター氏は2014年のIPCC第5次評価報告書(AR5)にふれて、そう語った。
「海面上昇予測の精度を上げるには、こうした事象をもっと理解しなければなりません」
21世紀に入るまで、西南極氷床とグリーンランド氷床にはいつも、流出量と同じくらいの積雪があった。つまり、流れ出た分は新たな降雪によって補われていたのだ。
しかし、20年ほど前から地球温暖化のペースが速まり、このバランスが崩れている。
昨年、グリーンランドでは、5,320億トンという記録的な量の氷が失われた。これは、オリンピックプール6個分の冷たい淡水が毎秒、大西洋に流れ込んでいるのに等しい。2019年に確認された海面上昇の40%は、この流出によるものだ。
Map of Antarctica locating Seymour Island which recorded its hottest ever temperature on February 9
AFP/File
氷床と海洋、大気の相互作用をより厳密に反映した新世代の気候モデルが、来年に完成が予定されている次のIPCC評価報告書(AR6)の基盤となるだろうと、スレーター氏は言う。
スレーター氏の研究チームは8月中旬、欧州地球科学連合(EGU)の学術誌『The Cryosphere』に山岳氷河、北極の氷冠、グリーンランドと南極の氷床を含む地球上の氷河に関する別の調査報告も出している。氷河のなかでも北極の氷冠のように海中に作られているため解けても海面が上昇しないものもあり、海面上昇の原因になるのは、失われた氷河の半分以下の量であるものの、調査の結果1994年から2017年までの間に地球上の氷河は28兆トン近くも失われたと計算され、1994年から2017年にかけて、氷が消失するスピードが6割近く上がっていることが分かった。
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