ハリウッドで働くアニメーション・アーティストのリーム・アリ・アディーブ(34歳)がそのアイデアをひらめいたのは、カタールにいる姉妹のサンディと電話で話しているときのことだった。
新型コロナウイルスの感染が拡大する中、世界中の他の地域と同じように、中東に住む幼い子どもたちも、家から出られないでいた。それなのに、オンラインで楽しめるようなアラビア語のオリジナルコンテンツ(楽しみながら学べる教育動画など)はほとんどなかった。
シリア出身のアリ・アディーブは、現在、ロサンゼルスにあるワーナー・ブラザーズ・エンターテインメントでアニメーション・アーティストとして働いている。サンディは、カタールの大学で薬剤学を教えている。2人は、自分たちで何とかしようと立ち上がった。
2人はまず、「Susupreemo」というYouTubeチャンネルを立ち上げた。このチャンネルでは、お絵描きや折り紙、なんてことのない絵本の読み聞かせなど、基礎的な教育コンテンツをすべてアラビア語で提供している。アラビア語を話す子どもたちと、ストレスを抱えた親たちが、新型コロナウイルスによるロックダウンを乗り切る助けになればと考えた。
「子どもたちが夢中になれるような動画を作ろうと考えています」 そう話すアリ・アディーブは、ワーナー・ブラザーズで子ども向けの番組を手がけてきた。ドクター・スースの名作をアニメシリーズ化したネットフリックスの『緑のたまごとハム』もその一つだ。
「英語なら、子ども向けのコンテンツはネット上に山ほどあります。でも、アラビア語のオリジナルコンテンツはそんなにありません」 現在、在宅勤務中のアリ・アディーブは、『緑のたまごとハム』シーズン2の制作に取り組んでいる。「子どもたちと一緒に絵を描いたり、読み聞かせをしたり、工作をしたりと、画面を通じて、お互いにやり取りをしながら楽しんでもらうことが目的です」
サンディには7歳になる息子オマールがいる。オマールもこの楽しい活動の一員として、動画の中で折り紙を披露しているという。
「オマールは本当によくやっているわ。今までに動画を3本撮ったけど、私たち3人の中で、彼が一番の功労者よ」とアリ・アディーブは言う。(※「3本」は取材時点の数字)
アリ・アディーブ自身はというと、視聴してくれる子どもたちを自分の世界に引き込もうと、『緑のたまごとハム』のキャラクター(特に、ニワトリとキリンが一体になった「キリンドリ」)を登場させている。
サンディは絵本を読みながら、子どもたちを想像の世界へといざなう。
「今は本を買ったり、借りたりすることがなかなかできません。アラブに住む恵まれない子どもたちは特にそうです。だから、読み聞かせをすることにしました」 サンディはAFPの取材にメールでそう答えた。
「まず3~6歳の子ども向けの本から始めました。今は、もっと長い期間楽しんでもらえるような本を探しているところです」
– 新しい現実 –
これまでのところ、反応は驚くほどいい。子どもたちは、自分で描いた絵を嬉しそうにメールで送って見せてくれる。保護者からは、途中で割り込まれることなくオンライン会議に参加できたり、自分のために時間を使えることへの感謝の声が届いている。
頻繁に戦争が起こり、今回のパンデミックの前から子どもたちが厳しい現実に見舞われているような地域では、このような教育コンテンツが子どもたちにとって一時の救いになると専門家は言う。自宅でくつろげる環境にあろうと、難民キャンプにいようと、こうしたコンテンツで気持ちが楽になるのは同じだ。
「今、世界中の子どもたちが家から出られないでいます。中東の子どもたちも例外ではありません」と、ユニセフ・レバノン事務所の元代表アンナマリア・ラウリニは言う。
「自分の世界が突然なくなってしまったのです。学校もなく、友達と遊ぶことも、家族以外の誰かと関わることもありません」と彼女は続ける。「孤独な現実のせいで、将来の夢を見ることが難しくなり、想像力を自分の部屋のなかに閉じ込めておくことしかできない。それも、部屋を持てるほど恵まれていれば、の話ですが」
レバノンのベイルートでユニセフのコンサルタントとして働くソーハ・ブサット・ボウスタニによると、アラビア語の子ども向け教材としては、創造性や革新性の面で劣るものしかないような地域では、YouTubeの教育コンテンツがかなり必要とされている。
「だから、『Susupreemo』のような活動には良い面しかありません。子どもたちにとっては、閉塞感から解放される健全な手段であり、日常の感覚を取り戻すことができるのですから」
アリ・アディーブとサンディ、オマーンがこれまでに作った動画は7本。3人はパンデミックが収まった後も、動画を作り続けていきたいと考えている。
「アニメに出てくる人気キャラクターの描き方を子どもたちに教えようと計画中です。あと、他のアーティストたちにもこの場所を開放したいと思っています」とアリ・アディーブは言う。「ダンサーの友人には、ぜひ子どもたちにダンスを教えてもらいたいの」
「私たちにできることはまだまだあるのだから」
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