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動物の毛皮は「時代遅れ」 2018年以降廃止

ファッション業界に欠かせないのが、毛皮などを提供する動物資源だ。しかし近年、多くの消費者が動物福祉(アニマル ウェルフェア)を重視するようになり、洋服の製作段階で動物に苦痛を与えないよう求める声が強まっている。こうした中、グッチは2017年10月、翌2018年からミンクやフォックスなどの毛皮を製品に使用しないと発表し、大きな話題となった。ビッザーリCEOは当時、イギリスのメディアに対し、動物の毛皮の使用は「少々時代遅れ」だと述べた上で、「環境と動物により良いことをする努力を続ける」と表明。同社は今日まで、合成素材のエコファーやラムウールを代わりに使用している。動物を苦痛から解放するのと同時に、2020年2月には国連開発計画(UNDP)などによる野生生物の保護を目的とするイニシアチブ「Lion’s Share Fund(ライオンズシェア基金)」に加盟するなど、動物福祉への取り組みを続けている。

グッチは、サプライチェーン全体でこうした取り組みを確実に実施させるため、サプライヤーや外注業者に対し、持続可能な原材料調達や有害化学物質の管理徹底、動物福祉の尊重などを定めた同社の規則を遵守することを求めている。グッチの親会社ケリングや第三者機関による定期監査で不適合と判断された場合、是正措置を実施できなければ、グッチとの取引終了といった厳しい措置を講じている。

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Gucci ArtLabでのレザーグッズやシューズの研究開発・製造風景(グッチ提供)

SDGsに大きく貢献、 従業員にもプラスの影響

グッチは、環境への影響軽減だけでなく、事業活動に携わる人々の生活向上にも取り組んでいる。例えば、職場での性的マイノリティー(LGBTI)への差別撤廃を掲げ、全世界の社員に性別にかかわらず、産前産後休暇や養子縁組休暇、育児休暇を等しく付与。2025年までに全世界で社員雇用の男女差をなくすことも目指している。

世界中の女性や社会的弱者の支援にも取り組む。グッチは2013年、ジェンダー平等を推進するキャンペーン「CHIME FOR CHANGE(チャイム・フォー・チェンジ)」を設立。調達した資金で、アフリカのブルンジ共和国の子供に安全な水を供給するため、アメリカの歌手ビヨンセ・ノウルズ氏や国連児童基金(UNICEF)と共に立ち上げた「BEYGOOD4BURUNDI(ビー・グッド・フォー・ブルンジ)」プロジェクトを支援してきた。この他にも、社会的立場の弱いインドの女性を職人として活躍させ、経済的自立を支援するファッションブランド「I was a Sari」や、児童婚廃止を目指す活動への支援、本社での難民採用など、多岐にわたる取り組みを続けている。

ここまで紹介してきたグッチの一連の活動は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)が掲げる「気候変動に具体的な対策を(目標13)」や「海の豊かさを守ろう(目標14)」、「陸の豊かさも守ろう(目標15)」、「ジェンダー平等を実現しよう(目標5)」など17目標のほぼ全てに貢献している。一見、コストだけがかかるように思えるが、同社は「ポジティブな企業文化を持つことで、生産性の向上や従業員のエンゲージメント(従属)、業績、顧客満足度など、組織の効率が著しく上がる」メリットがあると強調する。つまり、単に製品を作って販売するだけでなく、環境や社会にも良い影響を与えているという認識が従業員の間で高まることにより、自身の職場や仕事に誇りを持つようになり、より良い結果を目指して1人1人が仕事に積極的に関与するようになる。ひいてはそれが、従業員間のコミュニケーションや新たなアイデアの創出を促進させ、生産性の向上や業績、顧客満足度の向上をもたらすかもしれない、ということだ。グッチは今後も、気候変動といった地球規模の課題に取り組みながら、世界の人々を魅了する最高品質のクリエイションを提供し続ける。

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LEED認証を取得した、グッチの本社屋やファッションショー会場を構えるGucci Hub(グッチ提供)

グッチの環境への取り組みピックアップ

  1. 事業活動やショップ、オフィス等における再生可能エネルギーの使用量を2020年までに100%にする。この施策により、2018年だけで二酸化炭素 (CO2)排出量を約45,800トン削減。
  2. 省エネなどで環境に配慮した建物に与えられるLEED認証を、複数のオフィスやショップで取得。
  3. ファッションショーで、持続可能なイベントであることを示すISO20121認証を取得。会場のGucci HubはLEEDゴールド認証を取得し、再生可能エネルギーやエネルギー消費量が少ないLED照明を全面的に利用した。ゲストへ送る招待状には、適切に管理された森林から作られたFSC® (森林管理協議会)認証紙を使用し、ミラノ市内での植樹によりイベントで排出されるCO2を完全にオフセット。プラスチック製食器やコップを使わずにケータリングを提供し、会場で使用した資材の約7割をレンタルか再利用可能なものにした。
  4. リサイクルや再利用が困難なポリ塩化ビニル(PVC)について、製品への使用を廃止。
  5. リサイクルプラスチックを靴のヒール部分などに採用。
  6. 使用済みペットボトルを原料に、化学製品を使用せずに加工された「NewlifeTM」 ポリエステル繊維を採用。
  7. アクセサリーや、バッグなどの製品の一部にリサイクルメタル (金属)を使用。リサイクルした金や銀、パラジウムを使用することで、採鉱による環境への悪影響を回避し、2018年には約11,000トンのCO2排出を抑制。2025年までに、 全製品でリサイクルメタルを採用する予定。
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  8. 殺虫剤や有害化学物質を使わずに生産・加工されたGOTS認証オーガニックコットンやシルクの使用を拡大。これにより、2018年にはCO2排出を約2,700トン回避。
  9. ビスコースなどのセルロース系繊維について、適切に管理されたFSC®認証森林や、CanopyStyle監査の期待値を満たした生産者から調達。
  10. 包装に使われる全ての紙類を、 FSC®認証紙に変更。gucci_2_04.jpg
  11. 漁業用の網や廃布、カーペットなどから作られた「ECONYL®」再生ナイロンを採用。ラグジュアリーブランドとして初めて、製品生産段階で生じた ECONYL®の端材を回収し、高品質の糸にしている。
  12. 再生カシミア「Re.VersoTM」の使用を2015年以降拡大。 同時に、カシミア生産が持続可能となるよう、カシミアヤギの生息地復元に向けた調査も支援。
  13. 環境影響が少ない方法で生産された原材料を厳選調達。森林や生態系を劣化・破壊していない営農システムからのレザー調達などにより、 2018年には約372,800トンのCO2排出を回避。gucci_2_05.jpg
  14. 動物の皮を革にする「なめし加工」について、重金属を使用しない方法(メタルフリーレザープログラム)を推進。
  15. なめし加工の前にレザーを製品に必要な分だけ切り抜き、処理する方法に切り替えたことで、従来の方法に比べて水と化学物質の使用量や、輸送にかかる温室効果ガス(GHG)の排出量を大幅に削減。 2018年には、8つのレザー加工のファクトリーがこの方法を採用し、エネルギーや水、化学物質の使用量をそれぞれ843,000kW、1000万リットル、145トン 削減。約3,400トンのCO2排出を回避。
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  16. 「Gucci-Up」プログラムを通じ、自社製品の製造過程で出たレザーや布の端切れをアップサイクル。 一部は、民族衣装のアップサイクルを行うインドのファッションブランド「I was a Sari」などに提供。これにより、2018年には約11トンのレザーを再利用し、CO2排出量を約4,500トン削減。
  17. 動物福祉(アニマルウェルフェア)を尊重。ミンクやフォックスなどの毛皮の製品への使用を2018年以降廃止。アンゴラウサギの毛の使用もやめた。ウールは、快適な飼育環境で育てられ、 「ミュールジング(ウジの寄生防止のため尻周りの皮を剥ぐこと)」をされていない羊から得たZQ認証メリノウールを採用。
  18. 国連開発計画(UNDP)などが発足させた、野生生物や生息地の保護を目的とするイニシアチブ 「Lion’s Share Fund」に加盟。
  19. 自社で削減しきれなかったGHGについて、途上国を含む世界中の森林保全活動REDD+への資金支援などを通じてオフセット(相殺)。

(画像すべてグッチ提供)

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この記事は、環境ビジネスオンライン 2020年08月31日号掲載より、アマナデザインのパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせは、licensed_content@amana.jpにお願いいたします。