国連は、ファッション業界の温室効果ガス排出量が世界全体の約10%を占めており、2030年までに現水準から約50%増加すると予測している。

こうした中、業界の先陣を切って対策を講じているのがグッチだ。

サプライチェーンのカーボンニュートラル化など、気候変動緩和に向けた様々な取り組みを進めている。

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マルコ・ビッザーリ社長兼CEO(Petra Collins氏撮影、グッチ提供)

1.5℃目標に向けさらなる行動を

「ラグジュアリーおよびファッション業界におけるサステナビリティの新たな指標を示す」—。イタリアのラグジュアリーファッションブランドのグッチは2019年、自社やサプライヤーを含むサプライチェーン全体で、事業活動からの温室効果ガス(GHG)排出を完全に相殺する「カーボンニュートラル」を達成した。同社は今後も毎年、サプライチェーンのカーボンニュートラルを実現したい考えだ。

具体的に、再生可能エネルギーの使用や、レザーの端切れの再利用といった取り組みにより、事業活動に伴うGHG 排出を削減。自社で減らせなかった分は、途上国での森林保全活動「REDD+(レッドプラス)」への支援などを通じてオフセット(相殺)する。これにより、GHGの年間排出量は実質ゼロになる見通しだ。

グッチは2017年、事業活動に伴う環境への影響を減らすだけでなく、事業活動に携わるすべての人々の生活を向上させることを目指す長期事業計画「Culture of Purpose(カルチャー オブ パーパス)」を発表。同計画を、ビジネスの中核に据えてきた。事業活動のカーボンニュートラル化も、この計画の一環だ。グッチは今日まで、親会社ケリングが開発した年次環境損益計算書(EP&L)で、国や工程、原材料別に事業活動による環境負荷(GHG排出量や水消費量、土地利用、廃棄物量、大気・水汚染)を測定・定量化。環境への影響が特に大きい工程や原材料を見つけて効率的に対策を講じる一方、自社のポータルサイト「GucciEquilibrium(グッチ エクリブリウム)」などで、取り組み状況を公開してきた。

グッチのマルコ・ビッザーリ社長兼最高経営責任者(CEO)は2019年9月、自社のサプライチェーンのカーボンニュートラル化について「自然界と気候に、迅速で具体的かつプラスの影響をもたらす先駆的な方法だ」と強調。「グッチは今後も、環境への影響を回避・削減するためのスマートで戦略的な方法を追求し、サステナビリティを推進するためのイノベーションに投資していく」との考えを表明した。

一方で、自社や他社の現行の取り組みは、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて1.5℃に抑える努力をし、今世紀後半にGHG排出量を実質ゼロにするというパリ協定の目標達成には「不十分だ」と指摘した。その上で「CEO Carbon Neutral Challenge (CEOカーボンニュートラル チャレンジ)」を提唱し、異業種企業のCEOに対しても、事業活動のカーボンニュートラル化など気候変動の緩和に向けた対策を直ちに講じるよう求めている。

ファッションショーの CO2排出を植樹でオフセット

グッチはこれまで、様々な活動を通じて、事業活動に伴うGHGの排出削減に取り組んできた。例えば、事業活動で使用する電力を、二酸化炭素(CO2)排出の少ない再生可能エネルギーで調達。2020年には再エネ率100%を達成する見込みだ。イタリアや中国、アメリカのオフィスやショップでは、省エネ機器の導入などを進め、環境配慮型の建物に与えられるLEED(リード)認証を取得した。さらに、製品に使うレザーは森林や生態系を破壊せずに作られた牧場から調達。ビスコースなどのセルロース系繊維や、梱包に使う紙や段ボールは、適切に管理されたFSC®(森林管理協議会)認証林から生産されたものを利用するなど、原材料の調達過程でCO2を吸収する森林を減らさないよう配慮してきた。

そしてグッチは、カーボンニュートラル化をさらに推し進めるべく、2020年春夏ファッションショー(2019年9月開催)や、2020年秋冬メンズ、ウィメンズファッションショー(それぞれ2020年1月、2月開催)でISO20121認証を取得した。持続可能なイベントであることを示す認証で、同社によるとファッションショーでの取得は世界初という。LEEDゴールド認証を取得した会場のGucci Hub(グッチハブ)で、再生可能エネルギーやエネルギー消費が少ないLED照明を利用したほか、ゲストへの招待状にFSC認証紙を使用するなどしてGHG排出を徹底的に削減。スタッフがミラノ市内で行った植樹により、全参加者の移動などイベントで排出されるCO2を完全にオフセットした。同社は今後も、新たな取り組みでGHG排出をさらに減らしていく方針だ。

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ISO20121認証を取得した2020年秋冬ウィメンズ ファッションショー(Dan Lecca氏撮影、グッチ提供)

水質汚染の軽減やプラごみ削減にも注力

ファッション業界はGHGの排出以外にも、様々な環境負荷を与えている。国連によると、ファッション業界は世界の廃水の20%を排出している。全世界で使用される殺虫剤の24%、農薬の11%が綿花栽培に使われており、土壌や水を汚染している。グッチはもちろん、こうした課題にも先導的に取り組む。

例えば、一般的に動物の皮の腐敗や硬化を防ぎ、製品に使えるレザーにする「なめし」加工には、重金属のクロムが使われることが多い。時間と手間がかからないため、大量の皮を早く安く処理できるからだ。グッチは、重金属を使わずにレザーをなめす方法を独自に開発・採用。殺虫剤や有害化学物質を使わずに生産・加工されたGOTS(ゴッツ)認証オーガニックコットンやシルクの利用も増やすことで、水質汚染を大幅に軽減している。

さらに近年、プラスチックごみによる海洋汚染が問題視されている。国連によると、世界全体で毎年、約800万トンのプラスチックが海に流れ込み、海洋生物が傷付いたり、誤飲で死んだりしている。こうした中、グッチは、海洋汚染の一因とされる石油由来の合成繊維への依存度を減らすため、使用済みペットボトル原料の「Newlife™(ニューライフ)」ポリエステル繊維や、漁業用の網や廃布、カーペットなどから作られた「ECONYL®(エコニール)」再生ナイロン繊維を製品に利用している。

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ECONYL®を採用した製品(グッチ提供)

廃棄物全般の削減にも取り組む。前出のECONYL®については、製品への使用過程で生じた端材を回収し、高品質の糸に転換することで、余すところなく使用している。また、「Gucci-Up(グッチアップ)」プログラムを通じて、製品の製作過程で出たレザーや布の端切れをアップサイクルしている。これにより、2018年には約11トンものレザーを再利用し、CO2排出量も約4,500トン削減したという。

環境×ファッション グッチはカーボンニュートラルに(後編)はこちら

 

この記事は、環境ビジネスオンライン 2020年08月24日号掲載より、アマナデザインのパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせは、licensed_content@amana.jpにお願いいたします。