欧州のいたるところに、小さいながらもうっそうと生い茂る森が姿を現している。生物多様性を回復し、気候危機に立ち向かおうとする活動の一環だ。

校庭や道路沿いを中心にみられるこうした森は、テニスコート一面分ほどの大きさしかないものもある。発端は日本の植物学者、 宮脇昭氏の取り組みだ。同氏は、日本やマレーシアなど世界各地に1000を超える森を作った実績を持つ。

宮脇方式で作られた「小さな森」は、従来の手法による森と比べると10倍の速さで育ち、密度は30倍、生物多様性は100倍を超えるとされている。その土地に自生する在来種の苗木を密植させる(1平方メートルあたり3本)のがコツだ。また、天然林で見られる階層構造を再現するため、多種多様な樹種――30種以上が理想――が植えられる。

科学者たちは、そのような生態系が気候目標達成のカギをにぎるとし、天然林は単一種の植林地の40倍の炭素を貯留できると考えている。森林が自然に回復するには70年以上かかるが、宮脇方式で作られた森なら、それよりはるかに短い期間で土地を再生できる。

「すばらしい取り組みです」 そう話すのは、野生生物学者のエリック・ディナースタインだ。彼は最近、壊滅的な気候変動の影響を避けるため、地球の表面の半分を自然保護区域として保全し、管理することを提唱する論文を共同執筆した。「帯状の『小さな森』が連なって、野生生物が移動できる回廊になり、郊外や都市部に新たな景色が生まれるかもしれません」

「小さな森」は、渡っていく鳴き鳥を引き寄せる可能性もあるとディナースタインは言う。「鳴き鳥は、さまざまな虫をエサとします。小さくても、在来種の森であれば、お腹を空かせた鳥が気軽に立ち寄れる栄養豊富なエサ場になるかもしれません」

2017年、オランダのワーゲニンゲン大学の研究者らが、植樹して間もない「小さな森」を観察したところ、「近くの他の森と比べて、生物多様性が増し、種群の数でも個体数でも、ほとんどの場合、比較対象の森を上回る」ことを確認した

ワーゲニンゲン大学の研究を率いた動物生態学者のファブリス・オットバーグは、生物多様性が増す一因は「小さな森」の若さと開放性にあると説明する。若く開放された森だと、花粉を運ぶ虫たちを引き寄せる低層の草花に日光が届きやすくなるのだ。また、いろいろな種類の樹を植えることでも多様性は増すとオットバーグは言う。「ここなら、チョウやバッタなどの虫のほか、カタツムリやカエルなど多くの種類の生き物が、自分に合ったエサや住処を得られます」

オランダでは、2015年から、自然保護団体「IVN Nature Education」が自治体や一般家庭を支援し、100ヵ所で宮脇方式の森づくりを行ってきた。2022年までに、その数を倍以上に増やそうとしている。また、他の多くの国でも同様の取り組みが進められている。ベルギーやフランスでは近年、さまざまな団体が40を超える「小さな森」を作った。

フランスでは、2018年3月に最初の「小さな森」が作られた。パリの外れにあり、すぐ横には交通量の多い四車線の道路が走っている。木が生い茂るその森は、近くに住む人々のために、騒音を吸収し、大気をろ過する役割を期待して作られた。植樹当日には、31種の苗木を手に40人が集まり、新しい命を植え付けた。苗木の栽培には、地元の馬小屋の堆肥が使われた。

さかのぼること二年前。エンリコ・フストとダミエン・サラチェーニは、パリの市民参加型予算から資金提供を受けるべく申請をしていた。市の資金の5%の使いみちについて、住民からアイデアを募る制度だ。二人は、パリの森林面積を増やす効果があるとして「小さな森」を提案した。同市の森林面積は現在10%に満たず、他の大都市と比べてかなり小さい。「どのコミュニティも、ふるさと再生の主役になれるのです」とフストは言う。

トゥールーズでは今年3月、「小さな森」づくりに取り組むある団体が400平方メートルの区画に1200本の苗木を植えた。

「Urban Forest」というこの団体を立ち上げた、ベルギーの博物学者 ニコラス・ド・ブラバンデールが宮脇方式の森づくりを始めたのは2016年のことだ。ボランティアや地元の自治体と協力して、道路に隣接する草の生えた細長い土地に300本の苗木を植えた。今では3メートルの高さの森に成長し、地面には腐葉土の分厚い層ができている。

「小さな森」には、住民がかかわることができ、すぐに成長が見られるという特徴があり、それが魅力だとド・ブラバンデールは考えている。彼の目に映るこの活動の未来は明るい。「話をすれば、誰もが共感してくれます。『小さな森』は、これからもきっと広がっていくでしょう」

 

この記事は、The Guardianよりハンナ・ルイスが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comまでお願いいたします。