ボリビアで教師として働くウィルフレッド・ネグレテ(35歳)は週に3日、自転車にホワイトボードだけを載せて、でこぼこの田舎道を走る。新型コロナウイルス禍のロックダウン(都市封鎖)の中で学校に通えない子どもたちのもとに行き、授業をするためだ。

AFPの取材に対しネグレテは、「自転車もあるし、どのみち市場に行くので、ホワイトボードを持って子どもたちの家に行くことにしたんです」と語った。

ネグレテの行動はSNSで拡散され、話題になった。彼の住むコチャバンバ中心部のアイキレという町は、アンデス地方に伝わる弦楽器、チャランゴの祭りで知られる。この町では、インカ帝国にルーツを持つケチュア族が住民の大半を占める。

新型コロナウイルスの感染が国内で広がりはじめた3月から、ボリビアでは学校が休校となっている。

内陸国のボリビアは、コロナ禍で特に深刻な打撃を受けているブラジル、チリ、ペルーに囲まれている。6月17日時点で、国内の感染者数は1万9000名以上、死亡者数は600名以上だ。

当局はインターネットと携帯電話を使ったオンライン授業を勧めているが、地方に住む家庭の多くはそうした手段には手が届かない。そのため、子どもたちは教育を受けられずにいる。

Negrete has set up socially distanced tables and chairs at his home in Aiquile to teach pupils

そんな中ネグレテは、ホワイトボードを載せる台車を自分の自転車に取り付けるなど、自分にできることを必死にやろうとしている。それに対する生徒の母親らの反応は好意的だ。

2人の子どもを持つ母親、オバルディナ・ポーフィディオは、「子どもたちのために時間を割いて授業をしてくれて、すばらしいと思います」と話した。

Negrete carries around his whiteboard to bring the school class to pupils' homes

サイクリングが好きだというネグレテ。彼自身もまた2児の父親だ。生徒のもとに出かけるのに加え、自宅でも授業を行っている。

机は子ども同士が距離をとれるように並べ、授業の前後にはアルコールジェルで手の消毒をさせている。

学習したことを「子どもたちが忘れてしまう」からと言い、ポーフィディオは毎日2km以上の道のりを歩いて、ネグレテの家に子どもたちを連れて行っている。

「学校に行けなくなってから2カ月以上経ちますが、勉強したことを少しずつ思い出しているみたいです」と彼女は加えた。

– 「考えさせる」 –

生徒たちを支えようと懸命に取り組むネグレテだが、それに対する追加の報酬は一切受けていない。教材はメッセンジャーアプリのWhatsAppで送ることにしているが、へき地に住む子どもたちはWhatsAppを使えない。

Negrete teaches his pupils about a healthy diet so that they can guard against all sorts of illness

「19人の生徒を受け持っていますが、そのうち13人は携帯電話を持っていなかったり、インターネット環境がなかったりするんです」とネグレテは言う。

たとえそうした環境があったとしても、アイキレではインターネットの接続状況が悪い。また接続できたとしても、通信速度が遅く教材をダウンロードできないことが多い。

さらに別の問題もある。多くの保護者は教材のダウンロード方法が分からないうえ、子どもの宿題を十分に理解できず、手助けできない。

多くの家庭ではコロナ禍によるロックダウンで可処分所得に影響が出ており、子どもの勉強のためにパソコンを買う余裕があるケースはまれだ。

月給およそ500ドルのネグレテのもとには、受け持ちの生徒以外にも、これ以上勉強の遅れを取るまいとする子どもたちが訪ねてくるという。

「新型コロナウイルスについて子どもたちに考えさせるようにしています。たとえば、フードピラミッドの話とか。食事を改善して、感染に打ち勝ってもらうためです」。冬はあっという間にやってきますから、とネグレテは語った。

 

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