タイの首都、バンコクの未来が危ぶまれている。

海面上昇、無計画な開発、地下水の汲み上げ、急速な都市人口の増加により、何百万人もの人々が自然災害の影響を受けやすくなっている。この都市は今世紀末まで存続できないかもしれない、と科学者は警告している。

不動産賃貸仲介サイトを運営するドイツのネストピックが新たにおこなった分析「2050気候変動都市指数(Climate Change City Index)」によると、バンコクは地球温暖化によって世界で最も大きな打撃を受ける可能性があるという。

このような脅威に直面しているのは、バンコクだけではない。ベネチアやニューオーリンズ、ジャカルタも、2100年までに水面下に沈むと予測されている。しかし、バンコクには、地球温暖化の影響を打ち消すという難題に挑むための秘密兵器がある。著名な建築家、コチャコーン・ヴォラコムだ。39歳の彼女は、やみくも(マインドレス)な建設をやめて、配慮の行き届いた(マインドフルな)開発をしようと呼びかけている。

「この状況は、生死にかかわる話です」とヴォラコムは言う。科学者の警告では、洪水や干ばつなどの異常気象でバンコクは荒廃し、今後10年で4割ほどが水没する可能性があるという。彼女は、瀬戸際に立つバンコクを救いたいと思っている。

「おびえながら、そんな事態を迎えるのはごめんです。今ならまだ、チャンスはあります。今すぐ行動を起こして、状況は変えられることを次の世代に示す必要があります。のんびり構えて、同じことを繰り返している場合ではないのです」とヴォラコムは語る。

Kotchakorn rails against Bangkok's unchecked development

ハーバード大卒の彼女を、輝かしい経歴にあぐらをかいていると非難する人はいない。ヴォラコムは都市計画そのものに問題があると断言し、気候変動の影響を緩和する解決策を示して、名を知られるようになった。

彼女が経営するランドプロセス社は、チュラロンコン大学に100周年記念公園(Centenary Park)をつくり、世界から高く評価された。バンコク中心部に4ヘクタールの広さをもつこの公園は、下向きに3度の角度で傾いている。雨水が、道の両側につくられた草地や湿地を流れるようにするためだ。

植物に吸収されなかった水は、公園のいちばん下にある池に流れ込む。池に溜まった水はろ過して乾期に使ったり、少しずつ放水したりできる。深刻な洪水が起きたとしても、この公園で最大380万リットルほどの水を保持できる。

– 世界をリードする期待の星 –

ヴォラコムは、無計画な開発を激しく非難している。バンコクは超高層ビルや工場、ショッピングモール、ホテルが林立する人口1000万人以上の大都市だが、ひたすら「成長に固執」することで、みずからの繁栄を脅かしていると警告する。

「誰もが毎年の開発でどれだけ成長できるかばかりを考えています。成長路線から、もっと環境に配慮した方向に、転換してはどうでしょう。自然にもっと耳を傾けるのです」と彼女は言う。

Convincing clients authorities and other businesses to see the big environmental picture has not b...

「開発に反対なのではありません。ただ、意義の大きい、配慮が行き届いた開発を、適切なペースで進めてほしい。そうすれば未来を失わずにすみます」

今、彼女の提案は国内外で広く受け入れられている。彼女が2018年におこなったTEDのスピーチは高く評価され、2019年には世界をリードする期待の星として、米タイム誌の「次世代の100人(100 Next)」に選ばれた。

しかし、経済目標と景気拡大に取りつかれた巨大都市で、クライアントや当局、他の企業に環境の全体像を見てほしいと説得するのは、容易ではなかった。

また、女性である彼女が男性社会で変化を起こそうとするのは、さらに難しかった。それでも、「型にはまった考え方」しかできない年配の男性が支配する業界では、とりわけそうした男性との違いが「武器」になるとヴォラコムは主張する。

提案の初期段階では、ほとんどのアイデアが却下された。それでも主張を曲げなかった彼女はこう話す。「彼らはきっと怖かったんですよ。でも、私は怖くありません」

「女性は男性とは違う考え方をするし、問題に対する姿勢も違います。多様な視点を持ち寄って、よりよい意思決定をするべきです」と彼女は付け加えた。

– 状況を変える –

2011年、転機が訪れた。タイはその年、50年に一度の大洪水にみまわれる。全国で数十万人が家を失い、800人以上が命を落とした。かつては湿地で自然の水路に囲まれていたバンコクが受けた衝撃は大きかった。

その後、世界銀行は、2030年までにバンコクの4割が浸水するとの警告を発した。

当時、状況を変える必要があるのは明らかだったとヴォラコムは語る。彼女はバンコクで育ったが、大気の質が急速に悪化していて、農薬の使い過ぎで食べ物の品質や安全性も落ちていたと言う。

2018年、彼女はアジア最大の屋上農園をつくった。この地域でよく知られる棚田を真似たもので、階段状に植えられた作物のあいだを雨水が流れ落ち、水と土の両方を守ることができる。約2万2400平方メートルの屋上には芝生も敷かれ、曲がりくねったジョギングコースになっている。

Hailing her late mother as her inspiration and her 11-year-old daughter as her motivation Kotchako...

年内には、チャオプラヤー川に架かる使われていない大きな橋をよみがえらせる計画も発表する。自転車専用レーン付きの公園にして、緑がほとんどない土地を緑化する試みだ。

「ありふれたものを作っても、何も変わりません。新しい建物が増えるだけです。でも(今までにないものを)創意工夫すれば、人々の暮らしのあり方や食習慣、持続可能性に対する考え方に刺激を与えて、実際に変えられるかもしれません」

故郷のバンコクに対する彼女の意欲は留まることを知らない。次の目標は、バンコクを縫うように流れる運河の「再生」。バンコクには現在、汚水がそのまま流されている運河が1000以上もあるのだ。

「運河には多くの生き物が住んでいます。公共の緑地として、都市全体の骨格となる可能性を大いに秘めています」と彼女は話す。

亡き母からインスピレーションを、11歳の娘からモチベーションをもらっているというヴォラコムは、自分の仕事がこれからの世代の問題解決につながればと願っている。

彼女はこう語った。「母親であることが大きな原動力になっています。次の世代に希望とソリューションをもたらしたい。自分の仕事が、後世に残るのですから」

 

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