旧東ドイツの共産主義時代の面影が今も色濃く残る、コンクリート製の巨大な集合住宅「プラッテンバウ」。ドイツ東部の都市を囲むように建ち、目障りな存在として見られることが多い。

そんな中、ベルリンの南西170キロにあるハレでは、新たな都市文化プロジェクトが進んでいる。その目的は、すこぶる評判の悪いこうした建物を、壮大な傑作アートに変えて、社会のつながりを促すことだ。

プレハブ式のコンクリートパネルで作られたこの灰色の建物は、貧困や対立と結びつけられることが少なくない。アーティストたちは、そこに明るいデザインを施すことで、普段交流のない人たちが話をするきっかけになれば、と考えている。

 

By brightening up the grey concrete tower blocks often associated with poverty and tensions artist...

 

ある一棟の側面を彩るのは、立体的で色鮮やかな壁画。衛星のような形をした宇宙船から木製のはしごをつたって降りてくる宇宙飛行士と、はるか下の方でそのはしごを支える二人の男性が描かれている。

背景には澄んだ青空が広がり、あたかも壁が消えたように見える。

イギリスのロックバンド「ピンク・フロイド」のCDジャケットにもなりそうなこの壁画は、「バランス・アクト」という作品だ。都市活性化プロジェクトを進める、アーティストと都市計画の専門家からなるFreiraumgalerieというグループが手がけている。

完成はまだ先だが、現時点で二つの建物の外壁にまたがって絵が描かれ、殺風景だった壁が生き生きと蘇りつつある。

 

The Freiraumgalerie artist and urbanist collective is bringing the otherwise dull facades to life

 

「アーティストたちは、プラッテンバウのいかつくて近寄りがたい建物の雰囲気を和らげようと、この青を選びました」と、同グループのメンバーのフィリップ・キエナストは言う。

770万ドル規模のこのプロジェクトを依頼したのは、この集合住宅を管理する住宅協会HWGだ。完成すれば、四つの建物の壁面8000平方メートルが塗り替えられることになる。

– あらゆるものは常に変化している –

HWGが2018年に建物の全面改装に取りかかったとき、目指したのは「独創的で、住民が共感できるもの」を作ることだった。協会のマネージングディレクターを務めるユルゲン・マルクスはそう話す。

そこでHWGが協力を求めたのが、ハレでは名を知られていたFreiraumgalerieだ。それまでにもエネルギッシュな絵で古びた建物を生き返らせてきた同グループは、「バランス・アクト」プロジェクトに住民たちを積極的に巻き込んだ。

 

When it's finished the seven-million-euro ($7.7-million) project will cover 8 000 square metre...

 

「住民のみなさんにいろいろなポーズをお願いし、写真を撮って、そのまま絵にしました」と、キエナストは言う。

そっくりではないにしても、住民は、建物に自分が描かれていのが分かるはずだと、キエナストは付け加えた。

40年以上にわたってこの集合住宅に住む元教師のエルフリーデ・シュルツ(79歳)は、このプロジェクトは大成功だと語る。

「『まあ、あのプラッテンバウに住んでいらっしゃるの?』っていつも驚かれるわ」 彼女はそう言って、うんざりした表情をしてみせる。

 

The Freiraumgalerie collective actively involved locals in the

 

「そんな風に言われるのは嫌。だから、こういうアートや色彩で建物が魅力的になって嬉しいわ」

HWGのマネージングディレクターであるマルクスは、この作品は「現状のままとどまりつづけるものは何もない。あらゆるものは常に変化している」というメッセージを伝えている、とみている。

このメッセージは、17世紀から続く格式高い教育機関「フランケ財団」を見下ろす場所に建つこのプラッテンバウにぴったりだ。

共産主義の時代には、この辺りの近代住宅は地位の高い党役員に評判がよく、「お偉方の家」とも呼ばれていた。

– 社会不安と犯罪 –

最近では社会的に恵まれない階層の住民が増えている、とマルクスは言う。彼は、4割程度が外国人ではないかとみている。

 

In Halle as in other east German cities the Plattenbau tower block complexes surrounding the old t...

 

この数年で極右政党の「ドイツのための選択肢(AfD)」への支持が急拡大している地域の、しかも極右団体「アイデンティタリアン運動」がドイツで拠点としている都市においては、この傾向には重大な意味がある。

ハレでは、趣のある旧市街を囲むように建つプラッテンバウが、社会不安を象徴する風景の一つになっている。これは、ドイツ東部の他の都市にも共通する現象だ。

そのような都市の一つノイシュタットは、犯罪発生率が高いことで有名で、欧州最大の経済国ドイツで最も貧しいコミュニティに数えられている。

 

Juergen Marx of HWG the housing association responsible for the blocks says he hopes the art proj...

 

だがマルクスは、ハレで進んでいるようなアートプロジェクトが、コミュニティの結束を強める力になりうると期待している。

「お互いを知れば、いろいろなことがうまくいきます」と彼は言う。

Freiraumgalerieのキエナストも肯いて、こう話す。

「私たちが絵を描いている住宅では、住民同士の交流があまりうまくできていないようです」

「絵に文句をつけられても、気に入ってもらえなくても構いません。それをいいきっかけにしてお互いに歩み寄って話をしてもらえれば」

「壁画がなければ、そんな交流は望めなかったでしょう」

 

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