「私たちは人々のために働いています。地雷を撤去し、みんなが帰って来られるように母国を安全な場所にしようとしています。戦争では、多くの人が深刻な被害を受けました。私の家族は逃げるほかに選ぶ道はなく、家も何もかも失いました」。そう話すのは、24歳のサブリーン。彼女は、700人以上のイラク人を抱える「 地雷顧問グループ(MAG)」で働いている。同団体の使命は、戦地に残された地雷やクラスター弾、不発弾を見つけ出し、破壊すること。MAGの活動は四つの大陸に展開しており、地元住民、特に女性の雇用と訓練に力を入れている。訓練を受けた撤去員は地雷探知犬を連れて作業場に行き、特殊な器具を用いて撤去作業を行う。この仕事に従事することで、女性たちは高い労働スキルを身につけて、社会に出る。同時に、生活費を稼ぐことができる。

MAGの最高責任者であるジェーン・コッキングは次のように語っている。「地雷や不発弾の被害に遭うのは、紛争復興国の中でも特に社会的に不利な立場の人々であることが多いのです。そうした人々を雇用することで、地雷への恐怖心から地元住民を解放すると同時に『家族を経済的に支える』という重要な役目も担ってもらえるのです」

数十年にも及ぶ紛争の結果、イラクは世界でも特に地雷被害の多い国となった。2014年にISIL(イラクとレバントのイスラム国)に占拠されてからは、事態がさらに悪化した。イラク北部のタル・アファルでは、55人の地雷撤去員が活動している。西はシリア、東はモスルに面するこの地域は、ISILの戦略上重要なルート上に位置していた。撤去員のサブリーンは現在、タル・アファル北部のアヤディヤ地区でアラブ人、トルクメン人、クルド人のスタッフとともに地雷を撤去している。2年ほど前、イラク政府軍と連合軍によって最後に解放されたのが、このアヤディヤ地区だった。この地区では、地元住民の多くが農家として自給自足的な生活を送っていた。だが、土地の安全性が確保されなければ、再び農業を始められない。

アヤディヤ地区は地雷地帯に囲まれており、地区内部にも自爆ベルトなどの爆弾や不発弾がいたるところに残っていた。地区東部にある80万平米程度の地雷原では、この1年の間に5件もの事故が起こった。事故を受け、MAGのスタッフは地元住民に地雷の危険性を伝える啓発活動を行った。「人々は危険性を理解していません。子どもたちは特にそうです…。おもしろそうな物を見つけたら、たとえそれが爆弾だったとしても、おもちゃにしてしまうのです」とサブリーンは語る。現在は、不審な物を見つけた住民はMAGに知らせることになっている。取材日の時点では、タル・アファルで撤去された爆弾の数は累計2,217個だった。

MAGの任務は過酷だが、やりがいもある。夏は暑く、器具は重い。「4時に起き、5時にはMAGの事務所に着いています。持っていく道具を選び、医療キットの確認が終わったら、1時間程かけてアヤディヤの作業場に向かいます」。そう話すのは、23歳のラシャ。撤去員たちの食事当番を仲間と交代で引き受けている(普段の昼食はサラダとパン)。「私は人々のために活動する団体の一員であることを誇りに思います。私たちには安心して生活を立て直せる場所が必要なのです」

撤去員の給料は、家族の生活を支える糧となる。特に、両親が高齢あるいは病気で働けない家庭や、兄弟姉妹がまだ学齢期の家庭では、撤去員の給料なしでは生活が成り立たない。スハム(20)は次のように語っている。「これは人の役に立つと同時に、家族を養える素晴らしい仕事です。家族のほぼ全員が私の仕事を喜んで受け入れてくれています。ただ、母は違います。母は私を心配し、その仕事は辞めなさいと何度も言ってきます。私は、心配しなくて良いよ、と母に言い聞かせています…。大丈夫だから、と」。ダラール(24)の母親もまた、彼女の仕事をよく思っていないという。しかし彼女は「私は9人の妹と2人の弟を養っています。それに加え、みんなが故郷に帰って普通の暮らしを送れるようサポートしているのです。それを誇りに思います」と説明する。

MAGのイラク担当指揮官のポーティア・ストラットンは次のように語っている。「MAGは(イラクで)初めて女性の作業員を雇用した団体で、イラク内のどの地雷撤去団体よりも多くの女性作業員を抱えています。当団体の勇気ある女性たちは、地元地域の安全と戦後の復興に貢献しています。重大な役目を果たしているのです」。MAGがアヤディヤ地区での活動を開始した昨年夏には、避難所から家に帰ってきている家族はわずか5世帯だった。それが今や750世帯以上になり、店もちらほら増えてきている。食料品店も肉屋もガソリンスタンドもある。しかし、まだまだ先は長い。「もっと多くの女性が私たちの影響を受け、MAGに参加してくれると良いと思います」とダラール撤去員は語る。

MAGはタル・アファル近くのシンジャール地区でも撤去員を雇っている。かつて同地区には、少数宗派であるヤジディ教徒40万人が居住していた。しかしISILの侵略を受け、この地に暮らしていたヤジディ教徒は移住を強いられた。捕囚や虐殺の対象となった者もいた。クルド当局や人権保護団体によると、拉致されたヤジディ教徒の女性や子どもの数は6000人を超える。女性や少女の多くは拷問を受け、奴隷として売り飛ばされたこともあった。一方、少年たちは家族から引き離され、ISIL兵士の家に送り込まれた。ヤジディ教徒としてのアイデンティティも剥奪された。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が5月に発表した内容によると、今でも3000人程のヤジディ教徒が行方不明のままで、その多くが女性や子どもだという。故郷のシンジャール地区は荒廃し地雷だらけなので、ほとんどの人が家に帰れない。戦禍を免れた建物の大半には爆弾が仕掛けられている。これらの爆弾が撤去されなければ、インフラの再建は進まず、居住できないままだ。「アメリカの人々のように平穏に暮らしたいんです」と撤去員のヘイム(24)は言う。「地雷がすべて撤去され、どの家族も安心して家に帰れるようになることを願っています」

ここからは、今年4月末から5月初めにかけてシンジャール地区で撮影された写真を紹介する。MAGの撤去員としてシンジャール地区で働くのは、全員ヤジディ教徒だ。

24歳のファシマ(上の写真)は、シンジャール地区南部ランブシ村で働く撤去員のリーダーを務めている。「この仕事で一番大変なのは、初めて見るタイプの爆弾や仕掛け爆弾の処理だと思います」と彼女は言う。「隠しスイッチがあるかもしれないので、とても慎重に扱わなければなりません。大変ですが、自分を信じ、挑み続けるしかないです。」

21歳のヴィアン(上の写真。地雷探知犬のエックスラングとともに)は、MAGの犬の調教師の一人だ。「この仕事にとても満足しています」と彼女は言う。「私たちは爆弾を撤去して、人々がこの地域に再び帰って来られるようにしています。私にとっては天職です」。同じく犬調教師のハレマ(29)も「家族を養うと同時に地元に貢献したくて、この仕事をしています」と語る。相棒犬アーロンについては「優しくて温厚で賢くて、遊ぶのが大好きです。私の指示にも素直に従ってくれます。お利口な犬で、標的を見逃すことはありません」とハレマは話す。

21歳のホリヴァ(上の写真)も、撤去員であることを誇りに思っている。「この仕事には危険な面もあることは分かっています。でもしっかり訓練を積んでいますし、これは必要な仕事です。私の地元では男女が平等なので、撤去員になることができました」。ホリヴァの家族は現在ドイツで暮らしているが、ホリヴァ自身は弟とともにイラクにとどまることを決意した。「地元の再建に貢献したいんです」と彼女は言う。「この地域には、私が必要です」

 

この記事は、InStyleのジェニファー・メイソンが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comまでお願いいたします。