アルファ・ラマザニ(33歳)は、飛行機の荷物棚に大切な荷物をそっと置いた。
欧州であれば、その荷物の中身はありふれたものに思われるだろう。だが、秩序が崩れ荒廃したコンゴ民主共和国の首都キンシャサでは、脳に効く栄養として重宝される。
本屋を営むラマザニが欧州から持ち帰ったのは、有名な小説家の最新作や政治に関する論文、ミシェル・オバマの自伝、ジョー・バイデンの伝記など、発売されて間もない本の数々だ。ここキンシャサには、数は少ないが、熱心な読書家がいる。
ラマザニが大抵は休みの日を返上してブリュッセルに行く時には、重量規定をオーバーして何十キロもの手荷物を持って帰る。そのどれも、本がぎっしり詰まっている。
6000キロメートルの旅を終えて、彼のスーツケースは税関を通る。丁寧な荷ほどきの後、彼が営む「ブック・エキスプレス」の棚に本が並べられる。30平米の小さな店は、人々でにぎわうバーやオープンテラスが立ち並ぶ通りにたたずんでいる。
余計な手間やコストがかかっているにも関わらず、彼が持ち帰る本は欧州とほぼ変わらない価格で売られる。だがそれでも、コンゴでは、1日当たりの平均収入の何倍にもなる。
本を買う客についてラマザニは、「主に知識人です。政治家や大学の先生は、政治に関する本だけを求めてやってきます。それから、母親です。子どものために本を買いにきますね」と語った。彼自身にも、2人の子どもがいる。
コンゴ民主共和国(AFP)
グローバルな貿易網が築かれ、超高速でモノが届く現代において、こんな行き当たりばったりの方法で新刊の本が売られているなんて変に思われるかもしれない。
しかもコンゴは、約8000万人が暮らす元ベルギー植民地で、フランス語を公用語とするのだから、なおさら不思議だろう。
ところが、もともとは豊かで商いもしやすかったこの国は今では貧しくなり、ここで事業を行っていた大手出版社の関心も離れていってしまった。
キンシャサでは大体1冊20ドルで本が売られるが、これはコンゴの1人当たりの平均月収約43ドルの半分近くに相当する。
好きな仕事
だが一方で、ラマザニはこの市場の溝にチャンスを見出した。
彼の主な収入源は、キンシャサのベルギー人学校の学生への教科書販売の売上だ。ブリュッセルから本を持ち帰って売れば、収入の足しになる。
もともとはブリュッセルの本屋で働いていたラマザニは、2019年に故郷のキンシャサに「ブック・エキスプレス」を開いた。ベルギー人の恋人には、ただの「思いつき」だと言って不安をなだめた。
わざわざ本の買い付けに出向くのは、好きな仕事だからだという。
「飛行機で8時間もかかるし、到着したら今度は税関の検査がある。少し大変なんですけどね」とラマザニは言う。
その場をうまく切り抜けるために、本を物欲しげに見てくる税関の職員に漫画や絵本を渡したこともあるという。だが、金銭を渡したことは一度もない。
キンシャサで新刊を売る店はほかにもある。フランス文化に関連する品々を売るショップや、フランス政府公式の語学学校・文化センターのアンスティチュ・フランセのほか、カトリック教会が運営するMediaspaulやCepasといった出版社の直販店もある。
売れないフィクション
コンゴで出版される本は、「Grands Lacs」という本屋で売られる。メインストリートにあるこの店は、売場面積においてはコンゴ最大の本屋だ。
古本の市場も活気づいている。法律や経済、経営、歴史に関する古い書籍を売り込む露天商がその市場を盛り上げている。
だが、日々を乗り切るのに精一杯という貧しい人が多いこの国では、フィクションはほとんど人気がない。
経営する小さな本屋「ブック・エキスプレス」の前に立つラマザニ
サミール・トゥンシ(AFP)
「ふつうの小説は需要がないんです」と、ラマザニは売れ残った本に目を落として悲しげにつぶやいた。アメリー・ノートンやエリック=エマニュエル・シュミット、アラン・マバンクといった小説家の本が残っている。次にベルギーに行く時に持って行って、出版社に戻さなければならないだろう。
キンシャサには、読書好きが集まる小さなコミュニティがあり、ミッシー・バンガラという女性が営む文学カフェに定期的に集まっている。彼女は最近、コンゴの作家を集めてイベントを開いた。
「コンゴには、コンゴの文学が必要です」とバンガラは言う。
「読書に飢えている人たちがいるんです」とラマザニも言う。彼は、ブックフェスティバルを開く予定だと教えてくれた。
この記事は、Digital Journalで執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはすべてlegal@industrydive.comまでお願いいたします。