ウクライナの工業都市に住むカチャは、13歳のとき、自分がレズビアンであることを打ち明けた。それ以来、母に冷たくされ、クラスメートにいじめられるようになった。
それから2年、姓を明かすことは拒んだが、カチャは、母が自分を拒絶したときのことや、死んでくれた方がいいと言われたときのことを語った。
「母に受け入れてもらえなかったのは、とても辛いことでした」とカチャは話した。
学校では、友だちに話しかけられなくなり、先生は何もしてくれなかった。
安らぎは、思いもよらぬところにあった。いじめや嫌がらせに苦しむ10代の若者を主人公にした、全8回のテレビドラマ『最初のツバメ(Перші ластівки)』 だ。
現在15歳のカチャは、『最初のツバメ』を見たたくさんの人々のうちの一人だ。このドラマでは、人権NGO「ラ・ストラーダ」の周知もした。ラ・ストラーダは、若者たちの心の支えとなり、法律的な支援も行っている団体だ。
ウクライナには、子どもたちへのしっかりとした社会的支援サービスがない。2019年11月にテレビ・シリーズが放送されると、ラ・ストラーダ人権センターのホットラインへの電話相談は、著しく増えた。
新型コロナウイルスのまん延を抑えるために取られたロックダウン措置により、最近になって、ラ・ストラーダに支援を求める件数が再び急増してきている。親に虐待されている子どもたちが、家から出られず苦しんでいるためだ。
「社会的役割」
ラ・ストラーダでホットライン・コーディネーターを務めるアリョーナ・クリヴリャクは、「ラ・ストラーダの詳しい連絡先を番組の中で伝えたことで、このドラマは社会の中でより大きな役割を果たすことになった」と話す。
ラ・ストラーダの心理学者やソーシャル・ワーカーたちは、ドラマが放送された翌月に、6000件を超える電話相談を受けた。クリヴリャクによると、前月の6倍だという。
「このドラマは、今、10代の若者たちに最も身近な問題に焦点を当てました」とクリヴリャクは語る。ホットラインへの相談のほとんどは、児童虐待や学校でのいじめについてだという。
「私たちは初めから、このドラマを、特別な社会的プロジェクトとして位置づけていました」脚本家でプロデューサーでもあるエフゲン・チュニックはそう話した。
ウクライナでは、新型コロナウイルスの爆発的流行を抑えるために、3月に学校が閉鎖された。そのあとYouTubeに、『最初のツバメ』のいくつかのエピソードがアップロードされると、視聴回数は20万回を超えた。
ラ・ストラーダによると、ロックダウンが行われたことで、より多くの視聴者がこのドラマを見られるようになった結果、ホットラインへの相談件数が新たに増えたそうだ。
「親からの暴力や、子どもへの虐待についての訴えが増えています」とクリヴリャクは言う。
「現代のツール」
彼女の言葉は、人権NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」が4月の初めに出した声明と重なる。世界中で「隔離やロックダウン下で生活している家族は、とくにストレスがたまっており、家庭内暴力が増えている」というものだ。
ウクライナの行政監察機関で働くアクサナ・フィリピシュナは、政府からの支援がないために、10代の若者たちがホットラインに頼っていることを認めた。
国が運営する相談センターは、24時間体制ではない。しかも、多くの地域にはセンター自体がないという。
ホットラインの成功は、政府の不十分な体制を浮き彫りにした。だが同時に、より良い体制を築くための道筋も示してくれた、とフィリピシュナは付け加えた。
2018年に、学校でのいじめと闘うための法律が作られてから、およそ200件の有罪判決が下された。これは少なくとも、当局がこの問題を真剣に受け止めているしるしだ、と彼女は言う。
だがカチャのように、身体的な暴力を伴わない、あるいはカメラに記録が残されていないケースでは、立証するのがより難しいという。
フィリピシュナは、十分な訓練を受け、適切な設備を備えた国の機関が、子どもたちを守るためにもっと多くのことをしてくれるよう望んでいると語った。
そして、『最初のツバメ』シリーズを振り返り、こう述べた。「動画や映画、YouTubeなどが欠かせないツールなのは、間違いありません」
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