米国で、政府が低所得者に配布しているフードスタンプ。これはスーパーなどで食料品を購入する際に使うことができる、一定の金額が入った電子カードだ。2007年に設立されたNPOのWholesome Waveは、野菜や果物を買うとフードスタンプの利用可能額が2倍になる仕組みを作り、低所得層が健康な食生活を送る支援をしている。

ジェームズ・ビアード賞の受賞歴を持つミシェル・ニシャンは、1990年代に妻とともにニューヨーク市にレストランを開いた。当時は、自分の調理する食事が健康に良いかどうかはあまり気にしていなかったが、そんな折、息子のクリスが幼少にして1型糖尿病と診断された。

「自宅での献立作りが一変しました」とニシャンは言う。「健康の社会的決定要因について勉強し始め、米国には2型糖尿病患者が1500万人いることを知りました。2型糖尿病は、食事による予防・治療が可能な病気です」

健康を阻む壁を知る

ニシャンはまず学んだのは、心臓発作、肥満、脳卒中、リウマチなどの関節障害といった食生活に関連する健康問題の多くがバランスの取れた健康的な食事で予防・改善できることだ。そして、家族を養うこともままならない人々には、健康的な食事に欠かせない果物や野菜を買う余裕などないという現実も知った。

「フードスタンプ(米国で低所得者向けに行われている食料費補助対策)受給者には、普段野菜を買うような余裕はありません」とニシャンは言う。「自宅で献立を考えることもできません。体に良い食事をとる権利は誰もが持っているものであり、貧困がその障壁になってはならないのです」

Wholesome Waveが健康的な食事をより手頃なものに

食事に関連する病気に費やされる年間1兆ドルもの金額を削減するため、またアメリカ人の中でも健康的な食事を特に必要とする人々のため、ニシャンは2007年に非営利組織Wholesome Waveを創設した。最初に始めた「SNAP ダブル」という事業は、果物や野菜にフードスタンプを使うと、フードスタンプの利用可能額が2倍になるというもので、全国規模で展開した。

同組織が次に始めたのが、食事に関連する病気にかかるリスクが高い低所得者を対象とした果物と野菜の「処方箋」の発行だ。病院や診療所、一部の食料品店や農家の市場と連携して、健康リスクを抱えた個人やその家族が果物や野菜を毎月購入できる仕組みを作った。

アイダホ州に住むレティシア・ペイスは、「果物・野菜処方箋」を受け取る一人だ。シングルマザーのペイスは、処方箋として、50ドル分のカードをWholesome Waveから受け取る。このカードを使えば、毎月、食料品店で果物や野菜に引き換えることができる。また栄養士と面談する機会もあり、カードで購入する健康的な食料品の内容を確認したり、購入した食料品の調理法についてアドバイスを受けることができる。

「おかげで食料品を購入でき、子どもたちにも適切な食事を与えられています」とペイスは言う。「子どもたちが健康的な食事をして、きちんと栄養を摂っているのを見ると、嬉しくなります。実際、確かな変化も感じていて、私も娘も体重が減り、家族全員助かっています」

健康につながる選択を簡単に

「貧困に苦しむ人々も、余裕さえあれば健康的な食事を選ぶんです」とニシャンは言う。

Wholesome Waveの果物・野菜処方箋は、米国内でも地域によって微妙に異なる。たとえばフロリダ州タンパベイで発行するカードは、高齢者向けに作られており、安価だが健康に良くないジャンクフードや冷凍食品よりも果物や野菜を優先するよう促すものだ。

「今は缶詰ではなく新鮮な野菜を購入できます」と事業に参加するキャロライン・コバスコは言う。「食生活を変え、ヘルシーな食事をして健康を保つためのチャンスです」

そうした選択を誰かにしてもらうのではなく自分ですることは、米国人の基本的権利である。
「フードスタンプに依存する人は自分で選択することも奪われてしまっていた」とニシャンは言う。「そうした人々も今は、食料品店に行けば欲しいものを何でも選ぶことができます。それは我々が何から何まで決めるものではなく、施しとは違うのです。この事業の利用者は自分で選んでいるということを感じることができるのです。」

Wholesome Waveは、コネチカット州ブリッジポートを本拠地とする全米規模の非営利組織。SNAPダブルや果物・野菜処方箋などの事業を通じて、健康に良い果物や野菜をより手頃なものにすることで、恵まれない消費者がより良い食事を選択できるよう支援している。 www.wholesomewave.org

本記事は EatingWellに掲載されたものです。

 

この記事は、Cooking Lightのリンジー・ワーナーが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comまでお願いいたします。